焦点:ピカソ作品も炭素排出ゼロへ、気候変動対策に目覚めた美術館

Reuters

発行済 2022年06月19日 08:07

[ブリュッセル 15日 トムソン・ロイター財団] - 「パンデミックが過ぎた後、私たちはどんな世界を生きたいのか」――。新型コロナウイルスの大流行でフランス最大級の美術館が軒並み休館となった2020年、展覧会の企画や運営にあたるキュレーターたちは、今後の方針についてじっくりと考えるまたとない機会を与えられた。

パンデミックは「環境対策を強化するチャンスだ」。パリの著名美術館ポンピドゥ・センターのディレクター、ジュリー・ナルベイ氏は、自身のチームがビデオ会議を重ねてこうした結論に至ったと語る。

ポンピドゥは欧州最多の近代美術作品を収蔵しており、「近代世界の大きな問題に取り組むことは、私たちのDNAにすり込まれている」という。

美術館はコロナ禍を機に、展覧会に伴う温室効果ガス排出の削減に取り組み始めている。セット設営に使う資材のリサイクルや、展覧会の期間長期化、海外からの美術作品の借り入れを減らすことなどだ。

こうした措置は温室効果ガスだけでなくコストの削減にもつながり、美術館にとって一石二鳥と言える。

国際博物館会議(ICOM)によると、パンデミック対策の制限措置で打撃を受けた美術界にとって、コスト削減は欠かせない。化石燃料企業の協賛を得て展覧会が開催されることへの批判をかわす上でも役立つ。

米非政府組織(NGO)、環境・文化パートナーズのサラ・サットン代表によると、美術界はこれまで温室効果ガス対策で他の産業に遅れを取ってきた。「幸い、この世界もついに自分たちが出遅れたことに気付きつつある。つまり、こうした変革がようやく大きな関心を集めている」とサットン氏は語った。

欧米の美術館では過去数年間、二酸化炭素(CO2)計測器の導入や、環境対策に関するコンサルタントや監査の起用など、いくつかの対策が始動した。

サットン氏によると、長年の間、美術館は気候変動への影響が小さ過ぎて対策を打つに値しないという認識が持たれていた。美術ディレクターは気候変動問題を政治と同一視し、資金調達に悪影響が出るのではないかと恐れてきたという。

<近場で作品を調達>

パリはルーブル美術館、オルセー美術館、ポンピドゥ・センターと、来館者数世界トップクラスの美術館3つを擁する。平年であれば海外からの客を中心に年間数百万人が訪れ、多大な温室効果ガスを生み出す。

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海外から飛行機に乗って客が訪れるのを減らすために、美術館にできることはほとんどない。しかしアンディ・ウォーホルやピカソの作品を運ぶための航空便を減らすことは可能だと、EDHECビジネス・スクール(仏リール)のGuergana Guintchevaマーケティング教授は話す。

「1つ1つの作品が空を往復する。そしてキュレーターは出張で少なくとも2往復する」という。

教授によると、リールの美術館パレ・デ・ボザールは最近開催したゴヤ展で、常設作品と近隣欧州諸国にある作品を優先的に展示することで、輸送を削減した。

ポンピドゥ・センターも、米国やアジアから作品を借りるよりも、地元の作品を展示することに力を入れている。

美術館同士が資源を共有することで、温室効果ガスの排出を抑える取り組みもある。

ポンピドゥのナルベイ氏は、ニューヨークなど同じ場所から作品を輸送する際にはルーブル、オルセー両美術館と共同で出荷リクエストを出すことで、排出量とコストの両方を削減できていると話した。

<規模縮小、期間延長>

キュレーターは作品数が150点から200点に及ぶ大規模展覧会の開催に慣れているが、持続可能性を唱える人々は規模削減が可能だと指摘する。

展覧会のセットには、炭素排出量の大きい資材が大量に使われ、最後には廃棄されることが多い。これを可能な限りリサイクルしようとする美術館が増えている。

ポンピドゥ・センターでは、2020年開催の「クリストとジャンヌクロード」展で使ったセットの一部を、昨年の「ヒト・シュタイエル」展で再利用した。作家のシュタイエル氏自身が、クリストへの尊敬と炭素排出量削減の両面から再利用を望んだという。

クリストとジャンヌクロードは環境アート作品を作成していた芸術家夫妻。シュタイエル氏は映像作品などを手がける芸術家。

一部のフランスの美術館は、主要な展覧会の期間を延ばして回転を少なくすることで炭素排出量を減らす取り組みも行っている。