焦点:中国「ゼロコロナ」で習氏にジレンマ、抗議拡大受け妥協か強行突破か

Reuters

発行済 2022年11月29日 12:34

[北京 29日 ロイター] - 中国で新型コロナウイルス対策として厳しい行動制限を強いる「ゼロコロナ」政策に抗議する行動が全国に広がっている。中国問題専門家によると、これはゼロコロナにノーを突き付ける実質的な住民投票であり、習近平指導部発足後で最も強い一般市民からの政策に対する拒絶反応だ。

これほど多くの人々が拘束やその他の報復措置を受ける危険を知りながらも街頭に繰り出した光景は、1989年に起きた天安門事件以降久しく目にされていない。

アジア・ソサエティーの中国専門家ベーツ・ジル氏は「習近平氏が権力を握ってからの10年間で、政府の政策に対して市民が最も公然と、かつ広範に怒りを表明した」と述べた。

ゼロコロナを巡る市民の不満はソーシャルメディア、大学構内でのポスター掲示、あるいは抗議行動などさまざまな形で表明され、習氏にとっては2019年から20年にかけて起きた香港民主化運動以来の大きな国内社会問題となっている。

習氏はこれまで新型コロナウイルスを封じ込める「戦争」を主導するのは自らの責任だと強調し、ゼロコロナを正当化。10月に開催された第20回中国共産党大会では、「正しい」コロナ政策を政治的実績の1つとして報告した。

パンデミックが始まって3年近くを経た今、中国は政策の目標について感染者を常にゼロにすることではなく、「新規感染者が判明すればダイナミックに行動する」ことだとしている。

今回の抗議行動は習氏にとって悩ましい事態ではあるが、習指導部が倒れる段階には到底至っていない、と専門家は指摘する。なぜなら習氏は党と軍、治安部門、広報宣伝部門を完全に掌握しているからだ。

<一枚岩のもろさ>

確かにデモ参加者の一部は「習近平打倒、中国共産党打倒」と叫んでいる。しかし大半の人々は自分たちの住宅が封鎖されたのに抵抗したり、頻繁な検査を受けるのを拒んだりしているに過ぎない。

上海政法学院元准教授で現在はチリを拠点に評論活動をしているチェン・ダオイン氏は「これらの個人的な利益が満たされれば、ほとんどの人は気が収まって退散するだろう」と話す。

チェン氏によると、学生たちも高度に組織化されておらず、1人の中心人物に率いられているわけでもない。

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天安門事件の場合、当時の共産党最高指導部内で危機対応方法や今後の中国が進むべき道について意見対立があった。

ところが習指導部にそうした対立は存在しない。習氏は先の共産党大会で党と軍の最高指導者に再任され、党の要職には腹心の側近を配置。かつて習氏に反対意見を表明したり、別の政策を遂行したりした指導部内の人物は中枢から遠ざけられた。

もっとも専門家は、これらの政治手続きを経て習氏の権力は一層高まった半面、その権力基盤は今回の抗議行動で露わになったようにもろい側面も抱えている、と分析する。

シンガポール国立大学東アジア研究所の中国専門家、ランス・ゴア氏は「自分の耳に心地よいことを言ってくれる人々にだけに取り巻かれることで、習氏は何でも肯定される状態に陥り、大半の国民がいかにゼロコロナ政策に苦しんでいるか実態をつかめないか、彼らの窮状を過小評価してしまった恐れがある」と分析した。

<習氏の苦境>

足元の抗議行動の拡大により、習氏の苦境はさらに深まった。その苦境とは、つまり当初は単に指導者としてのプライドのために導入されたが、次第に政治的な負債になりつつあるゼロコロナ政策をどうやってうまく巻き戻すかということだ。

もし習氏が一般市民の圧力に屈してゼロコロナ政策を撤回すれば、弱腰とみなされ、市民は政策変更を望むたびに積極的に抗議行動をするようになるだろう。

中国の人権活動家テン・ビャオ氏は、習氏が抗議行動を容認すれば、これまでのゼロコロナ政策が完全に間違いで自身にその責任があるという話になり、面目を失ってしまうと話す。

専門家の見立てでは、習氏の性格上、屈服はあり得ない。

習氏は9月にウズベキスタンで開催された上海協力機構首脳会議で、反政府を意図する抗議行動を阻止する必要性を強調。非公開の演説では、旧ソ連共産党が権力を失ったのは試練に立ち向かえるだけの「人物」がいなかったからだと嘆いて見せた。

また政府として十分な準備が整わないうちに習氏がゼロコロナ政策を転換すれば、感染者や死者が急拡大し、医療システムがひっ迫して収拾困難な状況になりかねない。