コロナ収束前のGoToは無駄、消費減税は効果薄=原田前日銀委員

Reuters

発行済 2020年08月03日 17:23

更新済 2020年08月03日 19:27

[東京 3日 ロイター] - 名古屋商科大学ビジネススクールの原田泰教授(前日銀審議委員)は、新型コロナ感染症への安倍政権の対応が効果的とは言えないと指摘した。感染収束に至らない局面での「GoToキャンペーン」は感染自体の急増を招くだけで歳出の無駄との見方を示し、他の使途のために財源を取っておくべきだったとした。将来の財政赤字の補填に増税を実施した場合にはさらなる無駄な歳出につながるとして、自然増収で対応すべきだと語った。

また、景気刺激策としての消費税減税は効果が薄いとする一方、回復局面での日銀の長期国債買入れ増やマイナス金利深堀りなどは選択肢になり得るとした。

<財政の無駄に厳しい目、増税にも減税にも否定的>

これまでの安倍政権の財政政策対応について原田氏は「うまく対応しているのかというと、そうとも言えない。GoToキャンペーンの場合、感染が収束していない時に実施してしまうと、旅行需要だけではなく、感染者もV字回復してしまう可能性がある。そうしたことに財政資金を使う必要はなく、むしろ別の目的のために取っておくべきだった」と指摘。マスク配布についても、同様に無駄な歳出となった可能性があるとした。

コロナ以前から国際的にみても突出して悪化していた日本の財政だが、財政悪化が一段と顕著になった。その補填方法について「東日本大震災の際と同様に増税で補填することになると、震災対応で土地のかさ上げに莫大な費用を投じたように、後から増税等で返せばよいと思い、支出のあり方について適当に考えてしまう」と指摘した。

さらに増税議論を行うことの弊害も指摘。「現在の支出増を将来の増税で埋めようとすると、将来増税があると人々が信じてしまえば、それだけで財政による景気刺激効果がなくなってしまうため、ナンセンス」だとして、むしろ財政学者が個別の歳出項目をきちんとチェックすることが必要だとした。

  他方で与党の中には、今の景気悪化への処方箋として消費減税を主張する声もある。原田氏は「19年後半から景気が悪くなったのは消費税が主因だが、現在景気が悪くなったのは8-9割がコロナによる外出自粛に起因する。消費減税を実施してもその部分は戻らないが、残りの2割については、消費減税すれば多少は景気浮揚効果があるのではないか」との見方を示した。

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<日銀対応で株安や円高を抑制>

  他方で日銀による財政支援や資金供給などの効果については、円高や株安がリーマン・ショック時と比べてある程度抑制されていることもあり、評価してよいとの認識を示した。

中央銀行と財政との距離の取り方を問題にする論調もある中で、原田氏は「日銀による長期国債の買い入れ額はほとんど増えてない。一方で、CPや社債といった民間資産の買い入れは増えている。政府との距離感を問題にする人がいるならば、(日銀と)民間の距離感を問題にしたらどうかと思う」と指摘。「私自身はこの局面では民間資産の買い入れは仕方がないと思っている。これだけの大不況下、必要な財政・金融措置を取らないことで失業率が上昇し、自殺者が増えるような状況を作ってはならない」との考えを示した。

  さらに景気を刺激する段階になった場合、日銀のとり得る選択肢として「少し景気が回復に向かうのであれば、 金利が上がるかもしれない。その場合はもう少し買い入れを増やした方がいいだろう」と指摘。そのほかに「マイナス金利の深掘りもあるし、付利の引き下げもあるだろう」との見方を示した。