アングル:「脱東京」がREIT圧迫、オフィスに見直しも

Reuters

発行済 2020年11月05日 17:04

佐野日出之

[東京 5日 ロイター] - REIT(不動産投資信託)市場に「脱東京」の影響が出始めている。新型コロナウイルスの感染拡大でテレワークが普及するなか、企業や勤労者が都心から郊外に拠点を移す動きが出ており、東京の人口が都区部を中心に減少。東京の不動産が資産の大きな割合を占めるREIT市場の下押し圧力となっている。

日本の総人口は2008年の1億2808万人をピークに既に減少に転じているが、東京では、主に若年勤労世代の転入に支えられ、一貫して人口が増加してきた。東京都の人口推計によると、都の人口は2000年の約1200万人弱から、今年5月には1400万人まで達した。

しかし、その直後からトレンドが変調。10月1日時点の都の人口は前月比約1万0600人減の1397万1100人と、3カ月連続の純減を記録した。

UBS証券シニアアナリストの竹内一史氏は「コロナ危機前から、都心の昼間人口が減少することは想定してきたが、ここまで短期的に人口が移動するとまでは考えていなかった。コロナ禍の影響については、まだ様子見のテナントが多いものの、長期的には、人々の生活や経済活動の中心が一部、都心から郊外に移ることによる都心不動産への影響が懸念される」と話す。

東京株式市場では東証REIT指数 (TREIT)は前週、5月以来の安値水準を付けた。その後やや値を戻してはいるものの、同指数は年初来では20.7%下げており、日経平均株価 (N225)が既に年初来高値を回復しているのとは対照的だ。

ニッセイ基礎研究所の准主任研究員、佐久間誠氏も、東京で人口減少の兆しがみられることがREITの重しになっていると指摘する。当初はコロナの影響で東京に来られないなどの理由で転入者が減少したことが人口減少の原因だったが、ここ数カ月を見ると転出者が増えてきていると分析する。

この動きの背景にあるのが、コロナ禍でテレワークが広がったことだという。「都心部の狭いマンションへの需要は落ちてきている。寝るためだけに帰るような物件のニーズは減り、逆により広い家に住みたいという需要が出ている」(佐久間氏)。

住宅系J─REIT大手のアドバンス・レジデンス投資法人 (T:3269)によると、例年9月は、年度下期の人事異動に伴う秋の引っ越しシーズンで空室率が低下する傾向があるが、今年は都心5キロ圏内で空室率が上昇した。

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一方、こうした「脱東京」の動きは長続きしないとの見方もある。「郊外での良質な物件の供給には限りがあり、それほどドラスティックな変化が起きるのかは疑問だ」と三井住友トラスト基礎研究所の新規事業開発部長、菅田修氏は話す。

ただ業界関係者の間では、今のところ、都心の住宅価格が下落するほどの影響は見られないとの見方が多いものの、都心部の需要が弱まっているというのが共通認識となりつつある。

さらに、より中長期的に影響を与えかねないのが、市場規模12兆円のJ-REITにとって最大の投資対象であるオフィスの需要だ。

オフィス賃貸は長期契約が多いこともあり、テレワークが浸透しつつある現在でも、すぐにオフィスを縮小するような動きは一部を除いてまだほとんど見られないが、先行きについては慎重な見方も聞かれる。

フィデリティ投信でJーREITファンドを運用するポートフォリオマネージャー、村井昌彦氏は「コロナ禍で、オフィスでなくても社員が働けることが分かってしまった。今後もし景気が悪化して、企業が削るのは人件費かオフィスの賃料かという選択を迫られた場合、多くの日本企業にとってはオフィスの方がはるかに削りやすいだろう」とみる。

企業の採用活動も減少しており、それに伴ってオフィス需要も減衰することが見込まれる。「以前と同規模の景気後退があるとしたら、オフィスセクターが受けるダメージはその時以上になる。金融業界は、今回最も影響を受けるセクターが自分たちではないことから、この問題をやや楽観視し過ぎていることもあり得る」と村井氏は指摘する。