アングル:価格高騰で潤う米自動車業界、その先は不透明

Reuters

発行済 2021年08月13日 16:23

[10日 ロイター] - 米ニューヨーク市でホンダ車とその高級ブランド「アキュラ」のディーラーを営むブライアン・ベンストックさんは今年はじめ、取引先の銀行員に対し、駐車場に収まらない台数の自動車を買っておくのが得策だと説得した。

この賭けは当たった。人気のスポーツ多目的車(SUV)は今、販売店に届いた途端に買い手が付く。半導体不足でメーカーの生産が追い付かないためだ。ベンストックさんは今、同業他社の例に漏れず、店頭表示価格に料金を上乗せできる幸せを味わっている。

「こうも納車が少ないと、ディーラーには他に手の打ちようがない。価格を上乗せしなければ、営業を続けるのが難しいかもしれない」と話す。

自動車用半導体の不足は、当初は短期的な出荷の乱れから始まったが、今では長期的な問題に発展した。その結果、新車と中古車は高級車に至るまで平均価格が上昇し、インフレ懸念に火を付けてホワイトハウスを悩ませている。

自動車関連データに詳しいコックス・オートモティブによると、新車の平均価格は4万2000ドル、中古車は2万5000ドル前後に跳ね上がった。労働省のデータからは、中古車価格は過去1年間で45%上昇し、6月の消費者物価指数(CPI)上昇率に3分の1以上寄与したことが分かる。

<減った在庫>

自動車など商品価格の上昇は、バイデン米政権にとって悩みの種だ。共和党からは、同政権下での巨額の財政支出がインフレを引き起こしたとの批判も聞かれる。しかし、ホワイトハウス高官は、ロイターに対し「自動車価格の急上昇の根幹にあるのは、半導体不足だ」と言う。

ホワイトハウスは、半導体不足に対処しようと取り組んできた。この高官は、中古車を中心に「少なくとも一部の自動車価格は、ピークを過ぎた兆候が見られる」と語る。ただ、いつ平常時の水準に戻るかは不透明過ぎて見通せないという。

その一方で、米自動車ディーラーは空前の利益を上げ、自動車メーカーは過去数十年間経験したことのない価格決定力を享受している。

市場調査会社のJDパワーによると、米ディーラーが7月に新車販売で得た利益は合計51億ドルと、過去最高に達する見通し。1台当たりの平均利益は、4200ドルを超えるとみられる。

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半導体不足により、ディーラーとメーカーは通常よりはるかに少ない在庫水準で営業している。これは電気自動車(EV)のテスラを例外として、業界幹部らが長年夢見ながらほとんど実現したことのない境地だ。

米業界幹部は今、サプライチェーンのひっ迫が緩和した後も、いかにして在庫抑制と高価格を維持するかを模索している。

フォード・モーターのジム・ファーレー最高経営責任者(CEO)は7月末のアナリスト向け説明で、受注生産システムに移行して在庫を50―60日分に抑える構えを示した。

ゼネラル・モーターズは第2・四半期に過去最高の営業利益を記録し、来年も高価格が続くと予想している。同社のメアリー・バーラCEOは投資家に対し「当社は、今よりずっとスリムで効率的になる」と述べた。

ただ、ディーラーは過去にもメーカーからこうした話を聞かされてきた。リシア・モーターズのブライアン・デボアCEOは、最近のアナリスト向け会議で「競争環境にあるメーカーが、適切な台数の自動車を生産するようになるとは信じ難い。メーカーは常に過剰に生産してきた」と語った。

<中古車に追い風>

一方、中古車を売却する消費者には追い風が吹いている。在庫が枯渇したディーラーはソーシャルメディアや電話を通じ、以前車を販売した顧客に中古車を売ってほしいと呼びかけているからだ。