アングル:米労働市場の過熱、鎮静化の兆し 工場に求職者も

Reuters

発行済 2022年07月02日 08:01

[30日 ロイター] - 米ボルティモア市近郊でポール・センテナリ氏が経営する段ボール箱工場には最近、職を求める人々が訪れるようになった。ここ1年間、目にしたことのない光景だ。

「1カ月前にはなかったことだ」とセンテナリ氏。ほんの半年前、自身が最高経営責任者(CEO)を務めるアトラス・コンテナ社は人手不足を埋めるため、元受刑者に職を斡旋(あっせん)する社会福祉団体の戸をたたいたばかりだった。

「労働市場はまだタイトだが、わずかに緩み始めている」とセンテナリ氏は語る。

どの程度緩んでいるのかは、まだ明らかでない。米労働省が30日に発表した直近週の新規失業保険申請件数は、相変わらず数十年ぶりの低水準に近かった。

給与事務サービスを手がけるUKGの報告によると、米労働市場は6月前半に堅調さを増した。米連邦準備理事会(FRB)が利上げを実施し、一部エコノミストが景気後退入りの可能性を指摘し始めているにもかかわらずだ。

もっとも、ハイテクや住宅などのセクターで著名企業が解雇を発表するなど、労働市場が弱含む兆しも出ている。

電気自動車(EV)のテスラは今週、自動運転支援システム「オートパイロット」部門で200人を解雇。これに先立ちイーロン・マスクCEOは幹部らに対し、約10%の人員削減が必要だと告げていた。また、金融大手JPモルガン・チェースは住宅ローン事業で解雇に着手した。

求職者が自発的に企業を訪れるようになったことは、過去2年間にわたって人手の確保とその維持に苦心してきたアトラス・コンテナ社などの米企業にとって、一筋の光明だ。

アトラス社のセンテナリ氏は「常に人が辞めるので、常に人を採用している」と言う。同社の工場は冷房を備えていないこともあって、特に夏場は人手の確保が難しい。

「うちの夏は暑くなる」。だからこそ、採用責任者から求職者が来ていると聞いた時には驚いたという。

宅配大手フェデックスのラジ・スブラマニアムCEOは先週、同社の雇用問題は最悪期を脱したとの見方を示した。5月31日に終わった会計年度には、賃金インフレ、従業員の離職、人手不足の施設を避けて荷物を別の施設に迂回させるコストなど、人手不足に伴う経費が14億ドルに上っていた。

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スブラマニアム氏は、決算発表後のアナリストとの電話会議で「賃金は1年前に比べて上がったままだが、落ち着いてきている」と述べた。

新型コロナウイルスのパンデミック期、米労働市場では退職や転職をする労働者が非常に多く「大退職時代」とまで呼ばれた。パウエルFRB議長は最近の議会証言で、現在の米労働市場は求人倍率が2倍に近く「持続不可能なほど過熱している」と指摘した。