焦点:日銀の政策修正諦めぬ海外勢、リアルマネーも円債をアンダーウエート

Reuters

発行済 2022年09月20日 17:10

植竹知子

[東京 20日 ロイター] - 6月の日銀金融政策決定会合にかけて日本国債(JGB)を売った海外勢だが、政策修正への期待を捨てたわけではなさそうだ。ショートポジションの一部は巻き戻されたが、ヘッジファンドのような短期筋だけでなく長期目線のリアルマネー投資家の一部も「参戦中」だ。今週の日銀会合での政策変更を見込む声は少ないが、円安が進み、政治的圧力が強まれば、いずれ修正を迫られるとの見方は根強く残っている。

<海外勢が6月以来の円債売り>

財務省の統計によると、外国人(非居住者)は9月4日の週に日本の中長期債を2兆5705億円 (指定報告機関ベース)売り越した。過去最大の売り越し規模となった6月12日の週に続き、今年度では2番目の売り越し額となる。

日本証券業協会のデータでは、今年3月から6月にかけて外国人は長期債を9兆4881億円売り越した。7─8月で計3兆3625億円買い越したが、単純計算で約6兆円のショートポジションが8月末時点でまだ残っている計算になる。

「外国人には買い戻し余力があると言えるが、別な角度でみれば、日銀の政策修正期待をまだ完全に放棄していないとも見える」と、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の稲留克俊シニア債券ストラテジストは指摘する。

海外勢の動向に詳しい外資系証券のストラテジストは「市場は6月と比べれば落ち着いているが、外国人がJGB売りを止めたわけではない。いわば観光客的に日本市場に来た投資家はいったん去ったが、外為市場で日銀のレートチェックが入った14日以降は再び海外からの問い合わせが増えている」と語る。

6月から日銀への挑戦を公言する英ヘッジファンドのブルーベイ・アセットマネジメントは「日本でもインフレの兆しがみられる中、日銀の金融政策の転換点は近い」(マーク・ダウディング最高投資責任者)として、JGBのショート(空売り)スタンスを維持しつつ、円ロングのポジションを構築したと明かす。

新発10年国債利回り(長期金利)は日銀の変動許容幅「上限」の0.25%に上昇したが、6月のように0.25%を上回る動きはみせていない。だが、日銀のコントロールが及ぶ10年債の代わりに債券先物やスワップを使ってショートポジションを作り、正面ではなく脇から攻めるような動きもあるという。

アプリを入手する
Investing.comで、世界の金融市場の最新動向をチェックしましょう!
今すぐダウンロード

<リアルマネー投資家も>

日本国債に売り目線を向けるのはヘッジファンドだけではない。長期志向のリアルマネー投資家である米資産運用大手アライアンス・バーンスタインは、アクティブ運用の債券ポートフォリオでJGBを対ベンチマーク比でアンダーウエートしている。

日本債券ポートフォリオマネジャーの橋本雄介氏によると、同社ではイールドカーブ・コントロール政策(YCC)が導入された経緯から、日銀を動かすのはマクロ経済的な要因ではなく政治的な圧力だとみる。「8月半ば頃に政治的圧力が高まっていると判断した。黒田東彦総裁の任期中に日銀が動かざるを得ない事態になってもいいように備えている」という。

ロングオンリーの債券ポートフォリオでJGBをアンダーウエート中という別の米大手運用会社の債券ディレクターも「必ずしも今月の日銀会合で政策変更の可能性が高いとは思わないが、長くはもたないとの見方だ。可能性は高くなくても、仮にYCCの変更があれば10年金利は60─70ベーシスポイント一気に跳ねるとみられるので、リスク/リワード(リスク対比リターン)は悪くない」と話す。

<世界に逆行する日銀>

今週は米国、日本に続き、英国、スイスなど世界の主要中銀会合が相次ぐ。日銀以外はいずれも引き締め方向の決定が予想されるが、特にスイスはマイナス金利政策を脱却する見通しで、日本がマイナス金利政策を続ける唯一の国として意識されやすく、金利差から為替は円安に向かいやすい。

前出の米系運用会社のディレクターは、日銀だけが金融緩和に固執すれば、円相場は1998年の安値(1ドル=147.64円)を抜けて独歩安となる可能性があると指摘。

「円安が150円以上に進めば、政府はたとえ他国と協調できなくても介入を行い、黒田日銀にプレッシャーをかけるのではないか。今週はYCCに変更はなくとも、フォワードガイダンスの文言をニュートラルに戻す可能性がある。その場合、債券市場のボラティリティーが高まり、政府・日銀は厳しい局面に立たされる」と予想する。