焦点:米レンタカー大手のEV大量売却、コスト懸念で中古車市場に冷や水

Reuters

発行済 2024年01月19日 18:11

Akash Sriram Nathan Gomes

[16日 ロイター] - これまでも電気自動車(EV)は高価で修理が難しいと考えられていた。だがここに来て、そのイメージに新たな打撃が生じかねない。レンタカー大手のハーツがテスラ製など2万台のEVを手放し、ガソリン車に切り替えるからだ。

ハーツは保有台数ベースで米国最大のEVユーザーだ。今回の決定について、修理コストの高さとレンタカーとしての人気低迷を理由に挙げている。

アナリストや業界の専門家は、この決定が中古EV市場に影響を与え、ただでさえローン金利の上昇を嫌って高額な買い物を控える動きがある中で、EV購入意欲が低下するだろうと考えている。

「ハーツがEVを投げ売りする影響としてさらに大きいのは、EVテクノロジーの印象悪化だ」と語るのは、中古車情報サイト「アイシーカーズ・ドットコム」のアナリスト、カール・ブラウアー氏。

「メインストリームの消費者はただでさえ腰が引けているが、今回のニュースもEVへの懸念を裏付けるだけだ」

EVの修理コストの高さは、EV対応のための十分な専門知識の不足、そして依然として非常に新しい製品カテゴリーであるゆえに交換パーツの入手が困難なことに起因している、と業界の専門家は語る。

ハーツのスティーブン・シャー最高経営責任者(CEO)は昨年、あるカンファレンスの場で、テスラ製を中心に、一部のEVの損傷によってコストが上昇したと述べていた。

レンタカーとしての導入例が多いテスラとポールスターにコメントを求めたが、回答は得られなかった。またレンタカー会社のエイビスとエンタープライズにEV戦略について問い合わせたが、やはり回答はない。

シャーCEOによると、ハーツでは一部のレンタカー利用者による正面衝突事故が発生したことを受けて、安心して乗れるようEVのトルクと速度を制限し、運転経験の長いユーザーに限定して貸し出しているという。

非営利団体(NPO)「コンシューマー・リポート」が昨年行った調査によると、EVは従来の自動車メーカーにとって新たな技術で、ガソリン車に比べてより多くの問題に直面しているという。

このアンケート調査は、33万台以上の車について保有者からの回答を求めたもので、過去3年間、EVは従来型の車に比べ79%問題が多かった。

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多くのEVでは、バッテリーパックが事故で軽いダメージを負っただけでも修理や査定の方法がなく、保険会社としては走行距離の短い車でも償却せざるを得ない。これが保険料の上昇につながり、EV移行によるメリットが損なわれてしまう。

ドイツのレンタカー会社シクストは16日、最大25万台の車両を欧州自動車大手ステランティスから数十億ユーロで購入する契約を結んだと発表した。

この契約によりステランティスはシクストに対してEVも提供することになるが、それ以上の詳細については両社から発表されていない。

ハーツの動きは、同社に限らずEVを取り巻く環境が変化していることを示している。

従来の自動車メーカー各社は近年、EV構想に何十億ドルもの資金を投じると表明してきたが、需要の減速に伴い生産計画を後退させている。

市場調査会社カナリスによれば、北米市場におけるEV販売台数は、2023年には72%と爆発的な伸びを見せたものの、今年は約27%に鈍化する見込みだという。

<投げ売りされるEV>

専門家らは、ハーツは保有するEVを売却する際に大幅な値引きを余儀なくされる可能性があると指摘。走行距離が長く、傷やへこみなど目に見える損傷があるからだ。

EVを専門とする調査会社リカレント・オートのスコット・ケースCEOは、「この半年間、ハーツから(テスラの)モデル3を何回か借りたが、私が見たところでは、かなりくたびれた印象の車もあった」と語る。

ハーツが現在売りに出している中古EVは500台以上だが、ほぼ全てがテスラ製だ。小型セダン「モデル3」の中には、わずか2万1000ドル(約310万円)の売値がつけられているものもある。新車価格の半額で、他の売り手による同程度の走行距離の車よりも最大1万ドル安い。

こうした投げ売り状態は、ただでさえ従来タイプの車よりも価格水準が低くなっている中古EV市場全体に波及する可能性がある。

アイシーカーズのデータでは、2022年10月から2023年10月にかけて、中古車市場全体では5.1%しか価格が下落しなかったが、中古EVについては33.7%も値下がりした。

しかもハーツは、インフレ抑制法(IRA)に基づく4000ドルの税額控除を利用できる可能性があり、そうなれば同社が売却しようとする中古EVの一部は、多くのガソリン車よりもかなり低価格になる。