焦点:米財政赤字とドル安の政策ミックス、赤字ファイナンスの構造変化が後押し

Reuters

発行済 2019年08月30日 11:02

焦点:米財政赤字とドル安の政策ミックス、赤字ファイナンスの構造変化が後押し

[東京 30日 ロイター] - 米国が財政赤字拡大とドル安というポリシーミックスを満喫している。世界最大の債務国である米国は90年代後半にドル高政策で外資を呼び込み、自国経済を潤して株高を手に入れた。しかし、今は米連邦準備理事会(FRB)の金融緩和のおかげで安いコストで債務を発行できるうえ、米国債に対する国内投資家の需要が強く、以前ほど外国資本に頼らなくても赤字がファイナンスできる構造となった。

この構造変化は米国の財政規律を緩ませるだけでなく、通貨政策にも変化をもたらしている。

<赤字ファイナンスの変化とドル安政策>

米議会予算局(CBO)は21日、米財政赤字が2018会計年度(9月末まで)の実績7793億ドルから19年度に9599億ドルへ拡大し、20年度には1兆ドルを上回るとの見通しを示した。  

こうしたなか、米国の家計、年金、FRBなどの米国内投資家の米国債需要は高まっている。

米国の資金循環勘定によると、米国の財政赤字(残高ベース)に占める海外部門のファイナンス比率は、2008年には51%と高水準だったが、その後は徐々に低下し、昨年、今年と35―36%に収まった。米国債の発行量が増えても、その大半は国内投資家によって難なく消化されていることになる。

米国の赤字ファイナンスの構造変化は通貨政策にも影響を及ぼしている。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券のシニア・グローバル投資ストラテジスト、服部隆夫氏は「米国は、赤字ファイナンスのために(ドル高政策で)海外からの資金を引き付ける努力をする必要がなくなった」とみている。

米国第一主義を掲げ、米製造業の復活を目指すトランプ米大統領は「強いドルは米国に不利」と公言してはばからない。

ロス米商務長官は19日、「FRBの金融政策に起因するドル高に非常に気分を害している」と語った。

ムニューシン米財務長官は28日、米国は「現時点」で外為市場で(ドル売り)介入する意向はないと述べる一方で、介入する場合、財務省がFRBや他国と協調して行えばより効果的であるとの見解を示すなど、介入実施の可能性を残した。

バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチによると、10%のドル高が続けばS&P500種構成企業の利益は3─4%押し下げられる。

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アナリストの推計では、そうした企業の売上高の40─50%は海外で稼ぎ出される。最も大きな割合を占めるのはアジアと欧州であるため、円安やユーロ安に米国は神経を尖らせる。

ただ、皮肉なことに、米国が各国と貿易戦争を激化させればさせるほど、恐怖に怯えた世界のマネーは安全な避難場所を求めてドル買いのうねりを起こし、米国にマネーが還流する。このためドル安政策は今のところ奏功していない。

主要6通貨に対するドルの強さを示すドル指数 (DXY)は、オバマ政権前期(2009―13年)には73―85台と低位だったが、トランプ政権では88―103台で高止まりしている。

一方で、貿易戦争の長期化は企業の設備投資を既に冷え込ませ、実体経済への悪影響を増幅させており、米国と世界が景気後退(リセッション)に陥る蓋然性を高めている。

<膨らむ財政赤字とルービン元財務長官の警告>

米財政赤字の急ピッチの拡大は、財政リスクプレミアムの拡大を通じて長期金利を押し上げ、リセッションのリスクを高めるはずだが、グローバルな景気減速や金融緩和によるマネーフローの変化で、米10年国債利回り (US10YT=RR)は1.4%台と3年ぶりの低水準に収まり、米国に余裕を与えている。

米財政赤字の累積により米国債務残高はGDPの33%(2000年)から足元で78%まで膨らんでいるが、「とりあえず、何も悪いことが起こらない」(外国銀行)中で、トランプ政権は財政のアクセルを一段と強く踏み込む気配だ。

米国家経済会議(NEC)のカドロー委員長は22日、長期的な経済成長を支援するために、米政府は減税措置を検討しており、来年の大統領選挙キャンペーン中に導入される可能性があるとした。

しかし、NECの初代委員長で元財務長官のロバート・ルービン氏は、14日、ワシントン・ポスト紙への寄稿で、米国で財政危機が起きていないのは、たまたま、いくつかの偶然が重なっているからに過ぎないという。

偶然とは、1)民間の設備投資が低迷し、民間と政府部門で資金の奪い合いが生じないこと、2)非伝統的金融緩和でFRBが潤沢な流動性を供給していること、3)金融市場が持続不可能な財政状況を長期にわたって無視する傾向があること──だという。

ルービン氏は、1990年に財政赤字膨張を背景に米長期金利が上昇し、その翌年にはリセッションに陥ったことを例に挙げ「我々が自国通貨で外国から借金する能力があるからといって、こうしたリスクを排除することはできない」(同)と警鐘を鳴らす。