アングル:リスクオフは「現金化ステージ」に、株式と債券の同時安

Reuters

発行済 2020年03月13日 07:53

アングル:リスクオフは「現金化ステージ」に、株式と債券の同時安

[東京 12日 ロイター] - 金融市場でリスクを回避しようとする動きが次のステージに入ってきた。株式から債券など安全資産に資金をシフトさせる段階から、どの資産も売られる現金化の段階に移行しつつある。保有資産のリスク割合の均等化を図るリスク・パリティ・ファンドなどが、ボラティリティー(変動率)上昇を受けて資産売却に動いているほか、企業や金融機関が現金確保を進めているとみられる。

「キャッシュ・イズ・キング」──。各国は矢継ぎ早で政策を打ち出しているが、恐怖感が強まるマーケットに対して今のところ効果は乏しい。

<リスク・パリティの動きが一因か>

金融市場で、これまでと違う景色がみられた。株式と債券の同時安だ。11日の米市場では、米経済対策への期待が後退する中、ダウ (DJI)は過去2番目の下げ幅となったが、これまでなら安全資産として買われていた債券も売られたのだ。

その一因になったとみられているのが、リスク・パリティ・ファンドだ。システム(アルゴリズム)系のプレーヤーで、各アセットのボラティリティーを均等化(パリティ)する戦略をとる。

相場が上昇基調のリスクオン時に株式増・債券減、その逆のリスクオフ時には株式減・債券増とすることで、相場急変時の損失を最少化させる。さらにボラティリティーの上下によって、ポートフォリオ全体の規模も増減させるため、ボラティリティーが上昇すれば、株式と債券、両方を売却する。

代表的な株式のボラティリティー指数であるVIX指数 (VIX)は、新型コロナウイルスへの警戒感が強まる1月後半までは12ポイント台の低水準だったが、足元は53ポイント台と、2008年のリーマン・ショック以来の水準に上昇。債券のボラティリティーも米10年国債でみて過去最高レベルに達している。

アライアンス・バーンスタインの債券運用調査部長、駱正彦氏は、まさしく11日の米市場で株式と債券の同時売却が起きたとした上で、「リスクオフが進行する中、現金化の動きが広がっている」と指摘する。

同様の動きは18年2月にもみられた。当時は、リスク・パリティ・ファンドによる資産売却だけでなく、低いボラティリティーに賭けていた上場投資商品(ETP)の価格が急落、早期償還も相次いだことで、「ボラティリティー・ショック」となり、大幅な資産価格の調整が起きた。

アプリを入手する
Investing.comで、世界の金融市場の最新動向をチェックしましょう!
今すぐダウンロード

<企業と銀行も現金化急ぐ>

企業と銀行も保有資産の現金化を進めているとみられている。

米航空機大手ボーイング (N:BA)が、2月に設定した138億ドルの融資枠を13日にも使い切る──11日の米市場で関係筋の情報が伝わった。同社の株価は18.2%の大幅安。米市場全体のリスクオフムードを加速させる要因となった。

「企業が金融機関からの資金調達を急いでおり、それに備えるために、金融機関は流動性の高い米国債や株式を売却し、現金化を急いでいる。ボーイングのクレジットライン(融資枠)の話は、そうした動きが加速するのではないかとの警戒感を強めた」(外資系投信)という。

新型ウイルスで損害を受ける企業は米国でも増えている。米カリフォルニア州やニューヨーク州は非常事態宣言を発令。「自粛」が拡大する中、企業活動や個人消費が弱まる懸念が強まっている。

トランプ米大統領は11日、中小企業などに向けた500億ドル規模の低利融資による支援策も明らかにした。中小企業局には、影響を受けた企業への資金・流動性供給を指示する方針だ。ただ、全米に広がる影響に対し、十分かどうかは不明だ。トランプ大統領の演説後、株価は大幅に下がっている。

<市場が織り込む米ゼロ金利政策>

マーケットは一方向で進むわけではない。債券が売られ、金利が上昇すれば魅力は回復する。米国債はリスク資産から流出したマネーの受け皿となっていたが、10年債利回りが0.3%台まで急低下したことでマネーは「行き場」を失っていた。金利が上昇すれば、最も安全で最も流動性が高い米国債に投資家は回帰するだろう。

だが、11日の米市場では「中長期投資家が、新型コロナウイルスへの恐怖心から、株式と債券のエクスポージャーを両方落とし、現金を積み増している」(国内証券)との指摘が聞かれた。恐怖感に包まれたマーケットでよくみられる光景だ。

米10年債金利は反発したといっても0.8%付近。マーケットはFRB(米連邦準備理事会)のゼロ金利政策を織り込もうとしており、投資家に魅力的な金利水準の回復は難しいかもしれない。