アングル:ドル安で浮かび上がる「リスクオフ時の円高」という残像

Reuters

発行済 2020年07月27日 17:03

伊賀大記

[東京 27日 ロイター] - 日本の連休中に円高が進んだ主因は円以外にある。米中対立激化や実質金利低下によるドル安がドライバーであり、コロナ基金創設による統合深化期待が背景のユーロ高もドル安を促した。ただ、外部要因とはいえ円高が進んだことで、リスクオフ時の円高という「残像」も浮かび上がってきた。外部要因と連動し、一段の円高が進む可能性もあるとみられている。

<円高ではなくドル安>

日本の連休中にまた円高が進み、ドル/円は4カ月ぶりとなる105円台半ばまで下落した。しかし、今回はドル指数 (DXY)が1年10カ月ぶりの安値に下落しており、連休中の薄商いを狙った投機的な円買いというよりも、ドル安の面が大きいとみられている。

ドル安の主要因は、米中対立だ。米政府はテキサス州ヒューストンにある中国総領事館を閉鎖。これに対し、中国外務省は、四川省成都市にある総領事館を閉鎖した。「やられたらやり返す」状態になっており、一層の対立激化が懸念されている。

「トランプ米大統領は経済に影響しない程度に対中政策をとってきた。しかし、コロナで財政政策で経済を支えることになったため、関係悪化による悪影響が相対的に小さくなった。トランプ大統領の態度がはっきりしない中で、対中強硬派の意見が通り始めている」と、三井住友銀行チーフ・マーケット・エコノミストの森谷亨氏は指摘する。

一方、財政出動は議会の対立で難航。感染が拡大し続ける新型コロナウイルスの影響で、米景気が弱くなり始めているのもドル安の要因だ。18日までの米新規失業保険申請件数(季節調整済み)は約4カ月ぶりに増加に転じた。米長期金利は低下し、金利面でもドル安の要因となっている。

<ドル安の背景にユーロ高も>

ドル安の裏側には、ユーロ高の進行もある。ユーロ/ドル (EUR=)は1.17ドル付近に上昇しており、約1年10カ月ぶりの高水準となっている。その背景はユーロの信頼回復だ。

欧州連合(EU)は今月21日の首脳会議で、新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)で打撃を受けた欧州経済立て直しのために、総額7500億ユーロ(約92兆円)の「復興基金」の創設に合意した。

すったもんだの揚げ句の合意だったが、それでも合意に至ったことを市場は評価している。「欧州経済危機の際には、空中分解も懸念されたユーロ圏だったが、コロナを機として、結束を高めようとしていることは、統合深化への期待感を抱かせる」(国内銀行)という。

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米国発のサブプライム問題が起きた際も、ドル安の裏側でユーロ高が進んだ。ユーロ/ドルの史上最高値は2008年7月15日の1.6040ドルだ。今回の新型コロナでは、足元だけでみると欧州圏は相対的に米国よりもましな状況だ。こうしたこともドルからユーロにマネーがシフトする背景となっている。

<クロス円が示す円高リスク>

今回の円高は円以外の要因で進んでいる。しかし、連休中の薄商いの中とはいえ、1日で1円動くという急激な円高は市場関係者の脳裏に、リスクオフ時の円高という「残像」を浮かび上がらせるのには十分だったようだ。

SMBC日興証券のチーフ為替・外債ストラテジスト、野地慎氏は「慢性的な低インフレで日本の実質金利が高いことや、米中対立の激化懸念からリスク回避の環境下で円が買われやすかった以前の外為市場の行動パターンがよみがえった」と指摘する。

世界的な金利低下による調達通貨としての円の地位低下などを要因に、最近はキャリートレードの巻き戻しを起因とする「リスクオフの円高」は起こりにくくなっている。しかし、今回のように外部要因が原因であっても、リスクオフ時に円高が進むと、その流れに投機筋などは乗りやすくなる。