焦点:米国インフレは「一過性」か、見逃せない構造変化の潮流

Reuters

発行済 2021年05月14日 15:26

森佳子

[東京 14日 ロイター] - 米国のインフレ率が4月に急伸し金融市場で波紋が広がった。米連邦準備理事会(FRB)は、新型コロナ禍で経済が停滞した昨年の反動に過ぎず想定内とし、インフレは「一過性」との立場を貫く。しかし、米中対立による輸入物価高や、サイバーテロに象徴される地政学リスクの高まり、米国の財政金融拡張政策によるドルのばらまきなど、構造的な変化を見落としているとの見方もある。

<財価格を押し上げる変化>

4月の消費者物価指数(CPI)では、総合指数が前月比0.8%上昇(前年比4.2%上昇)。コア指数(除く食品・エネルギー)は前月比0.9%上昇と、1982年以来の大幅な伸びを記録した。

「過去4カ月の米CPIの伸びは総合指数で2.1%と、年率換算で6%超えの水準に達しており、昨年コロナ禍の低水準との対比で上げ幅が拡大する『ベース効果』では説明しきれない勢いを見せている」とグローバルエコノミストの斎藤満氏は指摘する。

トランプ前米政権が壊した世界的なサプライチェーン、半導体等でのボトルネック(供給制約)の発生、サイバーテロにみられる地政学的なリスクの高まり等の環境変化を考えれば、インフレが一過性では済まないことに、市場も薄々気付いているのではないか、と同氏は言う。

市場参加者のインフレ期待(予想)を表す指標であるブレーク・イーブン・インフレ率(BEI) は今週、5年債で269ベーシスポイント(bp)と約10年2カ月ぶり、10年債で257bpと約8年2カ月ぶりの高水準を記録し、長期的なインフレ高進の可能性を否定するFRBとは対照的な動きをみせている。

4月の米CPIの内訳では、サービス価格が前年比2.5%の上昇にとどまる一方で、財価格が同4.5%と上昇が顕著だ。

これまで米国のCPIが2%以下の水準にとどまっていたのは、サービス価格の高騰を、中国などから輸入する財価格の低位安定が相殺してきたからだが、「対中貿易摩擦でこのメカニズムが働きにくくなってきた」(在米エコノミスト)という。

米中貿易摩擦が米国内の価格に与えた影響を推計したニューヨーク連銀のマリー・アミティ氏らによれば、米国が中国からの輸入品に課した制裁関税分は、米国での販売価格高という形で米消費者が輸入価格増加分をほぼ負担した。

アプリを入手する
Investing.comで、世界の金融市場の最新動向をチェックしましょう!
今すぐダウンロード

4月のCPI上昇に大きく寄与した中古車価格の前月比10%の上昇については、「コロナ禍から解放されつつあっても、ヘイトクライムなどの犯罪も多いため、公共交通機関の利用が敬遠されている」(前出のエコノミスト)とされ、米国の分断社会が中古車需要を強めている面もある。

<ドルのばらまきに警鐘も>

米国では現金給付と失業給付を軸とする1.9兆ドル規模の経済対策が成立したばかりだ。老朽化したインフラの更新と重要産業強化を柱とする2兆ドル規模の対策や、子育て世帯などを支援する1.8兆ドル規模の予算計画も発表された。

米経済がコロナを克服しつつある中で、FRBはゼロ金利政策と量的緩和を継続している。

イエレン米財務長官は2日、財政支出は10年かけて行われるとして、大規模対策がインフレを加速させることはないとの認識を示し、FRBのクラリダ副議長は5日、量的緩和の縮小を討議し始める時期ではないとの考えを改めて表明した。

こうしたなか、インフレ上昇は米国の過剰な景気刺激策に対する「警鐘」との見方も出ている。

米著名投資家のスタンレー・ドラッケンミラー氏は11日、CNBCとのインタビューで「金融、財政政策がこれほど経済情勢からずれている局面を歴史上見たことがない」と発言。