焦点:総裁選先行論強まる、五輪後の支持率低下 首相再任戦略に不透明感

Reuters

発行済 2021年08月12日 17:23

更新済 2021年08月13日 07:18

竹本能文

[東京 12日 ロイター] - 報道各社の世論調査で菅義偉内閣の支持率が昨年9月発足以来の最低を更新している。新型コロナの感染急拡大と政府対応への批判の高まりで、東京五輪開催や日本選手団の活躍は政権浮揚につながらなかった。与党内では選挙基盤の弱い中堅・若手を中心に衆院選前の総裁選実施を求める声が浮上。党幹部が同調する動きも出ている。総裁選の前に衆院解散に踏み切り、選挙結果を踏まえて続投という首相の戦略に不透明感が漂い始めている。

NHKが10日公表した世論調査によると、内閣支持率は29%と7月の33%から4ポイント下落した。9日の読売新聞では35%(同37%)、8日の朝日新聞は28%(同31%)とそれぞれ菅内閣発足以来、最低の水準となっている。

駒沢大学の山崎望教授(政治理論)は「政府は五輪の高揚感でコロナ不安の払しょくと支持率の浮揚を考えていたが、五輪期間中に感染爆発が起こっており、政府の中等症患者自宅待機方針で医療崩壊が現実化した。ワクチン不足も発生しており、支持率低下に意外感はない」と指摘する。

与党内でも支持率低下は大きな衝撃をもって受け止められている。自民党の中堅幹部は「衆院選は若手を中心に相当苦戦する可能性がある」と述べる。

<二階・細田氏は菅続投支持を継続、任期満了選挙の観測も>

菅首相の解散・再選戦略にも不透明感が強まりつつある。首相の党総裁としての任期は9月30日、衆院議員は10月21日に任期満了を迎える。首相は、9月5日の東京パラリンピック閉会直後の衆院解散・総選挙で勝利し、総裁選を無投票で乗り切る意向とみられ、これまで10月3、10、17日が投開票日の候補として取りざたされてきた。

政府・与党中枢では現時点もこれがメインシナリオで、二階俊博幹事長や細田派の細田博之会長は菅首相の続投支持を表明している。

しかし支持率低下局面での選挙はリスクが大きく、与党内では「10月の任期満了で衆院選を実施し、総裁選はその後行えばよい」(閣僚関係者)との意見も出てきた。秋が深まるほどワクチン接種が進み、感染動向が落ち着けば、支持率の好転が期待できるとの読みだ。同時に「選挙前に首相が交代しても、大敗すれば選挙後に再度総裁選を実施せざるを得ない」(自民党関係者)との計算もある。

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公選法は「任期満了による総選挙は任期が終わる日の前30日以内に行う」と定める。今回は10月21日が任期満了日のため、任期満了選挙の投開票日は原則9月26日、10月3日、同10日、同17日の4パターンとなる。

衆院選がもっとも遅くなるのは、公職選挙法の例外規定により、10月21日の任期満了ギリギリで解散する場合で、11月28日の投開票となる。

実際に任期満了で行われた戦後の衆院選は1976年の三木武夫内閣のみだ。

<高市氏が出馬表明、下村氏も早期総裁選主張>

若手中堅の一部からは、衆院選に先立って総裁選を先行実施すべきとの声が出始めた。内閣支持率の低迷を反映し、衆院選で自民党が単独過半数(233議席)を下回りかねないとの予測が週刊誌などで相次いで発表され、「菅首相では戦えない」(自民中堅)との声が複数聞かれるようになった。閣僚周辺でも「菅首相はもともと安倍晋三前首相退陣に伴う緊急登板。そもそも再選を目指すべきではない」との声が出ている。

こうした中、高市早苗元総務相が10日発売の月刊文芸春秋で総裁選への出馬意向を表明した。11日には自民党新潟県連会長の高鳥修一衆院議員が柴山昌彦幹事長代理と面会し、総裁選を衆院選に先行して実施するよう申し入れた。下村博文政調会長も11日のテレビ番組で、総裁選を衆院選前に行うべきとの見解を示した。

昨年9月の総裁選に出馬した岸田文雄元外相も「チャンスがあれば総裁選に挑戦したい」(8日)と発言している。野田聖子・幹事長代行も「(総裁選は)常に準備している」(7月7日)などと出馬意欲をみせている。

22日投開票の横浜市長選で菅首相が推す小此木八郎前国家公安委員長が落選もしくは当選しても苦戦した場合、「菅首相で衆院選を戦えないとの声が本格化する」(関係者)との指摘もある。