焦点:円、調達通貨として再び脚光 懸念は逃避買いリスク

Reuters

発行済 2022年02月16日 18:53

[香港 15日 ロイター] - 日銀が主要中央銀行の中で唯一、ハト派の姿勢を貫いていることで、円が「キャリートレード」の調達通貨として、一番人気の座に返り咲きつつある。しかし、仮にウクライナ情勢が緊迫化したり、米連邦準備理事会(FRB)の積極的な利上げが資産市場の急落を招いたりすれば、円に逃避的な買いが集まって、同トレードを混乱させるリスクもはらむ。

低金利通貨で調達した資金で高金利資産を買うキャリートレードにおいて、円は長らく調達通貨としての役割を果たしてきた。ただ、コロナ禍によって他の中銀も金利をゼロ近辺に引き下げたため、その性質がやや薄まっていた。

だが、日銀は今週、10年国債の「指し値オペ」を実施して今後も利回りを低く抑え続ける姿勢を明示。これにより、円に対する調達通貨としての人気が再び高まった。

日銀とは対照的に、FRBや欧州の中銀はインフレに対して明確なタカ派姿勢に転じている。

JPモルガン(東京)のFXストラテジスト、ベン・シャティル氏は「あなたがロンドンか香港の投資家で、トレードの資金をどの通貨で調達しようかと考えた場合、選択肢は実質的に1つの中銀(日銀)しかない。少なくとも今のところは」と語った。

「円がキャリートレードの調達通貨として好まれてきたのは、まさにこうした環境下だ」という。

円を取り巻く環境は、従来から変わっていない部分もある。G7(先進7カ国)の中で最も弱い通貨の1つであり、短期金利はマイナスで、リターンを切望する国内の投資家は海外に投資している。

しかし、円をショート(売り持ち)にする取引には、ウクライナ情勢以外にもリスクが浮上している。

エネルギー価格と輸入物価は上昇する見通しであり、日銀が金利の上昇容認に追い込まれる可能性も排除できない。それと関連して、FRBが金融引き締めを積極化し過ぎて世界的に資産価格が急落し、「安全資産」としての円に資金が流入する恐れもある。

キャリートレードの典型的な方法は、金利の低い円かスイスフランで資金を借りて、利回りの高い別の資産に投資するという手法だ。このトレードのコストを抑制するためには、調達通貨が安定していることが重要になる。

円の短期金利は何十年間もゼロ近辺で推移し、日銀がイールドカーブコントロール政策を導入した2016年からはマイナス圏に沈んだ。

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円で資金を調達してブラジルの短期金融市場に投資するという、代表的なキャリートレードの1つを行った場合、年初からのリターンは年率10.7%に達した計算になる。

HSBCのFXグローバル調査責任者、ポール・マッケル氏は、投資家は再び円を調達通貨に使うかもしれないが、それはリスクが高いと指摘。「キャリートレードが順風満帆に進むことはあり得ない。キャリートレードというのは常々、こちらに向かって来る蒸気ローラーの前で小銭を拾うようなものだが、現在は政治リスクに伴ってさまざまな不透明要因があるため、蒸気ローラーは通常より少し近くまで迫っているかもしれない」と述べた。

<円安進展、日銀はどうするか>

ドル/円は先週、4年超ぶりの円安となる116円33銭を付けたが、ロシアによるウクライナ国境近くでの軍増強に対し、米国が警鐘を鳴らすと一時、同115円33銭まで急反転した。こうした急激な上昇はキャリートレードの利益を損なう。

マッケル氏は「円はあっという間に安全資産としての本領を発揮することがある」と言う。

日銀が、円安による経済への影響を懸念し始めるリスクもある。日本はエネルギーを大量に輸入しており、石油価格が7年ぶりの高値を付けているだけに、なおさらだ。

日本のインフレ率は、日銀の物価安定目標の2%にじりじりと近づいている。このため日銀がイールドカーブコントロールを緩めるのではないか、との観測も浮上している。

その場合、利回りは上昇し、円を調達通貨とするキャリートレードに大打撃を及ぼすだろう。

この点について、日銀は姿勢をはっきりさせていない。今週は指し値オペを行うことで金利を抑える決意を示してみせたが、同オペは散発的にしか行わないことも明確にしている。