アングル:原油急騰が日本株を直撃、長期金利低下が示す景気減速懸念

Reuters

発行済 2022年03月07日 17:11

伊賀大記

[東京 7日 ロイター] - 原油急騰が日本株を直撃した。約14年ぶりとなる価格高騰は需要増ではなく、ウクライナ危機による供給不安が主要因であり、景気減速懸念が台頭した。インフレが頭をもたげる中で利上げ警戒は後退せず、債券市場でも長めの金利が低下するなど景気の先行きへの不安を織り込み始めている。対ドルでの円高は進まず、日本経済にとって原油高の悪影響を和らげる方向には動いていない。

<ウクライナ問題、最大の打撃>

資源エネルギー庁の「エネルギー白書2021」によると、日本の国内総生産(GDP)に対する1次エネルギー供給量は、1973年度から2019年度までにほぼ半分になっており、エネルギー効率は2倍近くに改善している。

しかし、電力以外にも用途の広い原油の国内自給率はいまだにほぼゼロ。素材から輸送まで、原油価格が依然として幅広くコストに影響する。ウクライナ問題で日本経済が受ける最大の打撃は原油価格高騰によるものだと、野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミスト、木内登英氏は指摘する。 WTI原油先物価格を1バレル130ドルで計算すると、日本の実質GDP(国内総生産)を1年間で0.26%程度押し下げると、木内氏は試算する。

日本政府は、ガソリンや軽油・灯油・重油の価格高騰を抑制する石油元売り会社への補助金について、上限を現在の1リットルあたり5円から5倍の25円に引き上げるなど対応を進めている。しかし、原油価格上昇のスピードが非常に速く、小売り段階でのガソリン価格を抑えるには現時点では不十分との見方が多い。

7日の日本株は、石油関連や海運などを除きほぼ全面安。日経平均は一時900円を超える値下がりとなり、2020年11月10日以来となる2万5000円割れに迫った。自動車や空運などエネルギーを多く消費する耐久財を作るセクターが弱かった。

<金融緩和に期待できず>

これまで何度なく株価を支えてきた中央銀行による金融緩和が今回は期待できないことも株価の下値を軟弱にしている。原油高は景気減速要因である一方、インフレ要因でもあるためだ。インフレを放置すれば、物価の上昇と景気減速が同時に起きるスタグフレーションリスクが高まる。

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米金利曲線は短めの金利が高止まりする一方、長めの金利が低下するフラット化が進行。2年債と10年債の金利差は7日時点で約2年ぶりとなる24ベーシスポイント(bp)程度に縮小し、景気後退を示唆すると言われる「逆イールド」が視界に入ってきた。

「インフレ懸念が強い中では利上げを止めたり、金融緩和することもできない。短い金利は利上げを織り込んで下がらず、一方、利上げが将来の景気減速につながるとの懸念から長めの金利が低下している」と、りそなホールディングスのチーフストラテジスト、梶田伸介氏は指摘する。

円高が進めば原油の輸入額を抑えることができるが、足元のドル/円は114円台後半で底堅い動きを続けている。ウクライナ危機で安全資産需要がドルと円、両通貨でともに高まっているためだ。ユーロ/円などクロス円では円高が進んでいるが、原油輸入はドル建てであり、効果は薄い。

<1バレル200ドルの可能性も>

楽天証券のコモディティアナリスト、吉田哲氏は、ロシアのウクライナ侵攻で浮上した供給懸念によるリスクプレミアムが高まれば、今後3カ月でWTI先物は200ドルをつける可能性もゼロではないとみる。

WTI先物の過去最高値は2008年7月につけた過去最高値1バレル147ドル。1週間で約35ドル(36%)上昇し、130ドル台に乗せた勢いは「需給では説明できない。予想外の高値をつける可能性は捨てきれない」(吉田氏)という。

一方、投資家の不安心理を示すVIX指数は4日時点で31.98ポイント。上昇してきているが、コロナショックの20年3月につけた69ポイントの半分以下であり、マーケットの「恐怖」はまだ限定的だ。

原油価格の上昇が続けば、世界経済を冷やし、結果的に原油需要は減少する。いつまでも原油高が続くわけではない。しかし、ウクライナ情勢の行方が見通せない中、さらなるリスクオフに警戒感を解くべきではないとの声は多い。