焦点:日本株に「悪い円安」は未発生、ドル高止まる時が危険

Reuters

発行済 2022年05月06日 10:26

伊賀大記

[東京 6日 ロイター] - 足元で進む円安と日本株の相関性は、今のところはっきりしない。マーケットでも日本経済に対する円安の功罪について議論が分かれており、株価の材料としてはほぼ中立。日本株全体でみて「悪い円安」が発生している様子はない。相関性が高いのは米株であり、米株が大きく下落することで米利上げ観測が後退しドル高/円安が止まる時が日本株にとって危険な時間帯となりそうだ。

<TS倍率は足元上昇>

対ドルで円安が急激に進み始めたのは3月から。インフレ高進で米利上げ加速観測が強まり、日米金融政策の方向性の違いが鮮明化。日本の経常収支赤字化(1月)なども材料視され、115円付近だったドル/円は約2カ月で15円以上の円安が進んだ。

その間、日本株は3月後半までは円安・株高の関係になっていたが、4月に入ってからは円安・株安になっており、相関性は逆転している。ドル/円が120円を超えてから円安・株安のトレンドとなっており、この辺から「悪い円安」が発生したとの見方も聞かれるようになった。

しかし、TOPIXをS&P500で割ったTS倍率でみると、足元はむしろ上昇している。水準自体は依然低いものの、4月以降の日本株の対米パフォーマンスは向上。先進国23カ国と新興国23カ国の大型株と中型株を合わせたMSCIのACWI指数との比較でもTOPIXは上昇している。

日本株との関連性が高いのは、ドル/円よりも米国株や世界の株価だ。「市場のリスク選好度、もしくは世界の景況感に連動して日本株は動いている。円安は業種で影響が異なっているが、日本株全体をみれば今のところプラスに働いている」と、ニッセイ基礎研究所のチーフ株式ストラテジスト、井出真吾氏は指摘する。

<キャピタルフライトは見られず>

通貨価値の下落である円安を嫌って、日本の投資家が外国の株式や債券に資金を移している様子も見られない。3月から4月23日までの対内対外証券投資(財務省)では、日本居住者による対外株式・ファンド投資は、約1兆3000億円の処分超(売り越し)。中長期債も約4兆円の処分超だった。

ただ、国内投資家が日本株を選好しているわけではない。現物と先物を合計した日本株売買(東証・大取)では、3月から4月第3週までを累計すると、個人投資家は1374億円の買い越しにとどまっている。

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海外投資家は同期間に日本株を3143億円売り越しているが、特段売りが膨らんでるわけではない。4月だけをみると、8164億円買い越しだ。ドル高/円安の進行でドル建て日経平均は2020年6月15日以来の安値に沈んでおり、割安感からの「安値拾い」が出た可能性があるとみられている。

しかし、グローバル投資家は世界景気に対し悲観な見方を強めている。バンク・オブ・アメリカの4月ファンドマネジャー調査によると、世界の景気見通しは過去最低水準に落ち込んでおり、「今後の株式配分の引き下げ余地を示唆する」と同調査では指摘。波乱余地は依然大きい。

<ソフトランディングは可能か>

日本株にとって下落リスクが高まるのは、円安が進んでいる間ではなく円安が止まる時だ。いまのドル高/円安のドライバーは日米金利差。逆資産効果が懸念されるような株安が発生すれば、米利上げ観測が後退し円安は止まる可能性が大きいが、米株と連動性の高い日本株も大幅安となる恐れが強まる。

3─4日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では22年ぶりに0.50%ポイントの大幅利上げを決めた。マーケットは、警戒していた0.75%ポイントの利上げ可能性が後退したとみていったん金利低下・株高に動いたが、5日の市場では反転した。

声明文には「FOMCはインフレリスクに非常に注意を払っている」という1文が追加された。米連邦準備理事会(FRB)の目標の3倍近い水準にあるインフレ率が家計に及ぼす影響についてパウエル議長は「極めて不快」と述べており、6月と7月の会合でも大幅利上げが決まる見通しだ。米金利上昇を震源とした市場波乱のリスクは依然大きい。