コラム:日本経済に「ダブルパンチ」の夏か、猛暑・物価高が重なる可能性

Reuters

発行済 2022年05月28日 07:39

田巻一彦

[東京 25日 ロイター] - 猛暑と物価高が同時に到来する日本の夏──。こういう事態に直面する可能性が出てきている。気象庁によると、今年は偏西風が例年より北側にシフトして東日本では高温の可能性が高まっている。猛暑も行き過ぎれば外出が減少して消費を冷やすだけでなく、電力需給の逼迫による使用制限令が出れば、生産活動の抑制につながる。

また、エネルギーや食料品の値上がりの勢いがこのまま継続すれば、物価高による消費抑制効果も加わり、日本経済にはダブルパンチとなりかねない。政府・日銀や一部のエコノミストは夏場のリベンジ消費に期待しているが、失速の懸念も出てきている。

<偏西風の蛇行と猛暑>

気象庁が24日に発表した向こう3カ月の予報によると、東日本と北日本は気温が平年より高くなる可能性が50%以上となっている。日本に暑い夏をもたらすラニーニャ現象が発生し、偏西風が北にシフトして太平洋高気圧の北への張り出しが強くなると予想している。

実際、偏西風が北にシフトした2018年は梅雨の集中豪雨と梅雨明け後の猛暑が発生し、7月中旬以降は「災害級の暑さ」と表現されるほどの高温が各地で観測された。

<猛暑は消費に逆効果>

ここで問題になるのが、暑さと個人消費の関係だ。30度前後の晴天が続けば、行楽地の人出が増えて、新型コロナウイルスで疲弊してきた観光、宿泊などの対面型サービス業に大きな需要をもたらすことになる。

しかし、35度以上の「猛暑日」が続くようなら、逆に観光地の人出は抑制され、外出を控えることで、身の回り品の購買にも行かなくなり、個人消費が大幅に下押しされる。過去の猛暑の夏の消費では、そのようなデータがはっきりと残っている。

<心配な電力の逼迫>

それだけではない。猛暑の結果として冷房需要が大幅に高まり、電力需給が平年並みの気温想定よりも逼迫する懸念が出てくる。資源エネルギー庁がまとめた2022年の電力需給に関する資料によると、10年に1度の猛暑となった場合に東京、中部、東北の電力の予備率は3.1%に低下する。猛暑がさらに深刻化した場合、首都圏などで電力需給が逼迫する可能性も出てきそうだ。

過去には、産業界に対して目標値を設定した節電要請もあり、東日本大震災が発生した2011年7─9月期には電気使用制限令が発令され、首都圏や東北地方で15%の節電が要請された。

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産業界への電力供給の制約は、生産の抑制につながり、供給サイドからの景気下押し要因となってしまう。

また、半導体不足により家電製品全般で在庫の水準が低下しており、猛暑になってクーラーへの需要が盛り上がると、品不足が顕在化するリスクも出てくる。業界筋によると、クーラー販売額と気温上昇は比例しており、猛暑になった場合は8月上旬のピーク時に品薄や設置工事の大幅な遅れが表面化するリスクもあるという。

梅雨明け後にクーラーを稼働させ、故障が判明したというケースでは「冷房のない夏」を強いられるケースが出てくるかもしれない。

<広がる値上げと消費>

猛暑は経済の足を引っ張る要素に事欠かないが、そこに今年は物価高という要素が加わる。すでに4月全国消費者物価(除く生鮮食品、コアCPI)が前年比2.1%増と跳ね上がったが、夏場にはさらに上昇幅が拡大している可能性がある。

ガソリンなどのエネルギー価格だけでなく、食料品の値上げが広がっているためだ。4月全国の生鮮を除く食料は前月比0.5%増となった。このペースで上がり続ければ、年率で6%の値上げとなる瞬間風速を記録したことになる。

ガソリン価格の上昇は、タイムラグを伴って物流費の値上げとなって波及し、それが一般消費財の値上げを促すという流れを作り出しつつある。また、国内企業物価指数は輸入物価の大幅な上昇で上がり続けており、物価の川上における「水位」は上昇方向を維持したままだ。

一部のエコノミストはCPIの総合が、今年のどこかの段階で3%に接近もしくは乗せる可能性があるとみている。夏場はちょうど物価上昇のマグマが盛り上がる途中になって、個人の実質購買力に悪影響を与えている公算が大きいと予想される。

確かに2020年以降、コロナ禍による消費抑制で富裕層の貯蓄は増加しており、リベンジ消費で国内消費がⅤ字回復する可能性がある。