情報BOX:ECBは「中立金利」で利上げを終えられるか

Reuters

発行済 2022年09月20日 16:06

[フランクフルト 16日 ロイター] - 欧州中央銀行(ECB)の金融政策を巡っては、いわゆる「中立金利」水準で利上げを止めることができるのか、それともインフレを抑制するため、景気後退(リセッション)のリスクを冒してもそれ以上の利上げを余儀なくされるのかが、議論の的になっている。

ECB幹部とウォッチャーの間で「中立」は一種の流行語になっているが、中立金利はそもそも謎めいた概念であり、正確な水準は把握しづらい。ただでさえ複雑な議論を一層混乱させる恐れもある。

◎中立金利とは何か

中立金利とは、景気を刺激することも減速させることもなく、潜在成長率並みの成長率を達成してインフレも安定させる金利水準を指す。

問題は、中立金利が「観測不可能」であることだ。これは中央銀行語で「本当は誰も正確な水準は分からない」ことを意味する。推計値は無数にあるが、本質的に理論値であり、事が終わってから、場合によっては何年も後にならなければ実際の数値は分からない。

確かなのは、ユーロ圏の中立金利がここ数十年間、下降トレンドにあることだ。その大きな理由はユーロ圏の潜在成長率の低さ、人口高齢化、生産性向上ペースの鈍さにある。

◎ECBの中立金利とは

中立金利の推計値を示すECB幹部がほとんどいない中、最近2人の幹部が推計に踏み込み、しかもその数値を引き上げた。いずれも現在の中銀預金金利0.75%を大幅に上回っている。

その1人、ビルロワドガロー仏中銀総裁が示した推計値は2%弱で、自身の以前の推計値1―2%より高い。ストゥルナラス・ギリシャ中央銀行総裁も、以前の0.5―1.5%から「1.5%前後で、2%の可能性さえある」と推計値を上方修正した。

市場エコノミストの推計値も1.5─2%の範囲内が多く、主要先進国の中で最低の部類だ。

ソシエテ・ジェネラルは、「確度は低い」ながらもECBの中立金利は1.5%だと推計。米国は2.15%、英国は2.5%、スイスは1.75%、日本は最低の1%とした。

もう1つ厄介なのは、過去3年間にコロナ禍、供給問題、ロシアのウクライナ侵攻と激動が続き、中立金利が上下両方向から引っ張られて推計が一層困難になったことだ。

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ドイツ銀行は、エネルギーショックでユーロ圏の潜在成長率は下がり、従って中立金利にも下押し圧力がかかったと主張。「その半面、エネルギー投資需要の増加と経常収支の悪化は、投資・貯蓄バランスを変化させて(中立金利を)押し上げる可能性がある」としている。

これに対してコメルツバンクのミヒャエル・シューベルト氏は、ECBが中立金利を大幅に過小評価しているため、政策ミスのリスクがあると指摘。「ECBは金融政策の正常化ペースが遅くなり過ぎたり、拙速に正常化を終了したりする恐れがある。これによりインフレ率の2%超えが長引くだろう」と予想した。

◎中立金利で十分か

おそらく不十分だろう。ECB幹部らは、中立金利を超えて利上げを続ける必要性に言及し始めており、市場の金利予想も急速に上振れている。

市場が現在織り込むターミナルレート(利上げの最終到着地点)は、来春の2.5%強。ECBが8日に0.75%幅の利上げを実施して以来、この数値は約0.5%ポイント切り上がった。市場が以前より積極的な利上げパスを予想するようになったということだ。