市場の意表突く長期金利の変動幅拡大、海外金利の先安観も反映か

Reuters

発行済 2022年12月20日 20:07

[東京 20日 ロイター] - 日銀は20日、市場の意表を突く形で長期金利の許容変動幅拡大に踏み切った。市場機能の低下が企業金融に及ぶ事態を懸念、イールドカーブ(利回り曲線)の円滑な形成で緩和効果の波及を狙う。黒田東彦総裁は会見で「利上げではない」と強調したが、金融引き締めを意識した市場は大きく変動した。一方、市場動向が相対的に落ち着く中での決定は、海外金利が先行き低下し、国内金利がコントロールしやすくなるとの計算も透けて見える。 

<YCCの運用見直し、債券市場サーベイ悪化も一因>

日銀は金融政策決定会合後の声明で、イールドカーブ・コントロール(長短金利操作、YCC)の運用を見直す背景として債券市場の機能低下を挙げた。

日銀が連続指し値オペによって10年金利の上限を0.25%でコントロールする中、市場の機能低下はこれまでも指摘されてきた。黒田総裁はこのタイミングで運用を見直す理由として、このところイールドカーブのゆがみが厳しいものとなり、今後、企業金融を通じて経済にもマイナスの影響を与える恐れがあるためと説明した。

日銀はYCCによって債券市場の価格形成に深く関与する一方、市場関係者の声を調査することで市場機能の変化に目配りしてきた。日銀が1日に発表した「債券市場サーベイ」11月調査では、市場機能の判断DIが調査を始めた2015年2月以降で最低を記録。連続指し値オペを推進する中、昨年の政策点検後の判断DIの持ち直しが帳消しになったことで、日銀ではこの指標の結果を重く受け止めるべきだとの声が出ていた。

<催促相場の可能性、「あまり考えられない」>

日銀では、市場機能だけに配慮して長期金利の許容上限を引き上げるのは適切ではないとの声が出ていた。イールドカーブの歪みが、企業金融に悪影響を及ぼす可能性が出てきたことで、上限引き上げにつながったもようだ。

許容上限を引き上げれば、投機筋などが上限を試す「催促相場」が起きかねないとの警戒感も根強い。しかし、黒田総裁は債券市場で催促相場になる可能性は「あまり考えられない」と述べた。

その理由として、すでに物価上昇率がピークアウトした米国に加え、欧州もピークアウトの見通しであることを挙げた。日銀では、米国景気の減速感が強まるにつれ、米金利には低下圧力が掛かり、日本の金利への上昇圧力が弱まるとの読みもある。

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また、政策ツールを修正するなら、市場が相対的に落ち着いている時がふさわしいとの声も日銀では出ていた。

<市場は利上げ意識、サプライズに違和感>

長期金利の許容変動幅の拡大について黒田総裁は「利上げではない」と強調した。しかし、政策の企画を担う内田真一理事が5月の国会答弁で長期金利の許容変動幅の拡大は「事実上の利上げ」と述べたほか、黒田総裁自身も9月、許容変動幅を拡大すれば「明らかに金融緩和の効果を阻害する」と発言しており、市場は疑心暗鬼に陥っている。

日銀の決定内容が伝わると、市場は金融引き締めを意識。円金利が上昇し、円高・株安が進行。長期金利は一時0.460%と2015年7月以来の水準を付け、ドル/円は132円台に下落し、日経平均は一時800円を超える下げ幅となった。

GCIアセットマネジメントのポートフォリオマネージャー、池田隆政氏は「長期金利の上昇で政策金利も今後変更される可能性があり、マーケット参加者は日銀が金融政策正常化に舵を切ったと認識したのではないか」とみている。

一方で日銀は長期国債買い入れ額を増額しており、「YCC修正に伴う打撃を一定程度抑制する工夫もみられた」(みずほ証券チーフエコノミスト、小林俊介氏)という。

市場の予想に反して政策修正が行われたことに関しては「海外の景気の先行きが不透明で市場が不安定な中では、このようなサプライズは実体経済にも市場にも害を及ぼしかねない。大きな変更をするのであれば、もう少し事前に織り込ませるべきだった」(ニッセイ基礎研究所チーフ株式ストラテジスト、井出真吾氏)との見方も出ていた。

<日銀の独立性に委ねる>