焦点:任務拡大する自衛隊、能力増強の裏で解消しない隊員不足

Reuters

発行済 2022年12月22日 17:11

(本文2段落目の余分な字句を削除します。)

金子かおり Tim Kelly

[東京 22日 ロイター] - 防衛力増強の閣議決定を数日後に控えた12月上旬、10代後半から20代後半の男女11人が埼玉県の航空自衛隊入間基地に集まった。自衛隊への入隊を希望したり、すでに入隊が決まっている彼らは基地見学に参加し、滑走路や格納庫を案内され、自衛官の説明に熱心に耳を傾けた。

    「東日本大震災といった災害やミサイル防衛、中国の動向などをきっかけに国防に興味を持つようになった」と話す石田麻人さん(23)は、戦闘機の操縦士を志望している。「不安はあるが、国防に貢献したい」とロイターに語った。

    自衛隊に入り、日本の防衛に貢献したいと考えているのは他の見学参加者も同じだ。しかし、日本全体を見渡せば彼らのような存在は多くない。中国が急速に軍事力を増強し、北朝鮮が弾道ミサイルをひっきりなしに試射する中、安全保障への関心は高まっているものの、自衛隊の応募者は過去10年で26%減少した。

    日本政府が16日に決定した今後5年間の防衛費は43兆円。現行の5カ年計画から1.6倍に増やし、弾薬のほか、装備の部品不足を集中的に解消する。

    有事が起きた場合に戦い続けられる態勢を強化するためだが、弾薬や武器があっても、それを使う人が十分に確保できないのが防衛省・自衛隊の悩みだ。ロシアがウクライナに軍事侵攻し、台湾海峡の緊張が高まった今年は、特に採用が厳しいという。

    「今年は特に人が集まらない。例年は地域によって偏りがあるが、今年はまんべんなく人が取れない」と、海上自衛隊の幹部は話す。

とりわけ厳しいのが、現場の中心となる「士」の階級。今年3月末時点で定員約5万4000人に対し、8割弱の人員しか埋まっていない。この階級は常に若返りを図るため、全体の4割ほどが任期付きの隊員だ。

米海軍の戦闘機パイロットを描いた映画「トップガン マーヴェリック」がヒットした影響で、今年は隊員の応募が増えるとの期待が防衛省内にはあった。しかし、「ふたを開ければ全くだめだった」と同省関係者は話す。

<無人化装備や民間委託>

政府は防衛費の増額とともに、敵の基地などを叩く反撃能力を保有したり、サイバー防衛を強化することなどを決めた。任務は拡大するものの、自衛隊の定員は24万7000人のまま据え置く。

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19年まで統合幕僚長を務めた河野克俊元海将、08年まで自衛艦隊司令官を務めた香田洋二元海将とも、新たな計画を実行するには30万人が必要だと指摘する。「中国と北朝鮮から日本を防衛するために、人員は本当に大事な問題だ」と、香田氏は言う。

自衛隊は代わりに古い有人装備を退役させ、無人で運用できる装備を導入する。定員を陸自から海自と空自に振り替えたり、業務の民間委託も進める。海自が今年から配備を始めた新型の護衛艦は、従来艦のおよそ半数の乗員で運用ができるよう設計されている。

元陸将補で、現在は日本大学危機管理学部で教える吉富望教授は「無人化や省人化、民間委託などで対応し、本当に必要なところに人を充足できるようにすれば、今のような募集難であっても何とか対応できるだろう」と話す。

一方で、「国際情勢、戦い方、技術などが刻々と変わる中、今まで以上に知識や技能、経験が求められている。それは、質が高くないとだめだということ。それができるかどうかが問題だ」と語る。

日本が参加することを決めた米国主導の新たな防空システム構想「統合防空ミサイル防衛(IAMD)」など、現代の戦争はあらゆる装備がネットワークでつながり、戦場がサイバー空間や宇宙、認知領域にまで広がる。隊員にはこれまでの軍事組織とは異なる能力、技術が必要となる。

その中で募集対象となる18才から32才の人口は、今年度から28年度までに約75万人、38年度までに約262万人減少する見込みだ。

防衛省はロイターの取材に、「新規採用を着実に行い、さらに定年年齢の引き上げ、退職する自衛官の再任用、民間人材の登用といった取り得る手段を全て取ることにより、必要な数の人員を確保する」とコメント。「予備自衛官なども活用する」としている。