アングル:ディズニーも「動画配信重視」に舵、映画館の先行きは

Reuters

発行済 2020年10月18日 08:26

[13日 ロイター] - 米映画・娯楽大手ウォルト・ディズニー (N:DIS)はこのほどメディア娯楽事業の再編を打ち出し、米映画業界がストリーミング動画配信を優先しようとする動きの最新例となった。同時に大手メディア企業が果たしてどれだけ映画館の興行を支え続けられるのかについて、疑念も生じている。

ディズニーは12日、消費者のデジタル視聴の志向が強まっていることに対応するとしてメディア娯楽事業の再編を発表。「ディズニー+(ディズニープラス)」などの動画配信サービスの拡大促進を打ち出した。AT&T (N:T)やコムキャスト (O:CMCSA)も既に同様の動きを進めている。

ディズニーは米ヘッジファンド「サード・ポイント」の創業者で「物言う投資家」のデニエル・ローブ氏から、ディズニープラスなどへの資金配分を増やすよう圧力をかけられている。

ローブ氏は12日、ディズニーの今回の再編を称賛した。しかし同ファンドに詳しい筋によると、サード・ポイントはディズニーに対し、もっと多くの映画を直接、動画配信に向けるよう、あるいは映画館とディズニープラスで同日公開にするよう求めている。

ディズニーは傘下に「アベンジャーズ」や「スター・ウォーズ」などの大ヒット作を抱える。同社は事業再編を発表した際、映画館へのコミットは維持すると表明した。再編では配給部門からコンテンツ製作部署を分離し、新しい配給部門は映画館向けやストリーミング配信などを担うが、それぞれの作業は「緊密に協力して」行われるとも強調した。

ディズニーのボブ・チャペック最高経営責任者(CEO)はCNBCテレビで、再編はストリーミング配信に向けて「かなり劇的に舵を切る」ものだと説明している。

新型コロナウイルス禍は消費者の習慣を変え、ネットフリックス (O:NFLX)などのデジタル動画サービス視聴を急増させた。コロナ対策で映画館は休業し、映画業界は公開の新しいパターンの実験を迫られた。映画館で約90日間、独占先行上映してからプラットフォーム向け配信を始めるという伝統的な慣行はひっくり返ろうとしている。

ディズニーは世界的な映画製作停止と、新たな動画配信コンテンツへの需要に応えるため、アニメ映画でおなじみの「ムーラン」の実写版について、9月初旬のレーバーデーから米国ではディズニープラスでの販売を開始、劇場公開は米国以外の少数の国で開始させた。傘下のピクサー製作のアニメ映画「ソウルフル・ワールド」は当初11月に劇場公開を予定していたが、これをやめてクリスマスの12月25日からディズニープラスで見られるようにする。

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<苦境の映画館>

こうした動きが今後どう進むかは、映画業界が新型コロナ禍からどう浮上するかにかかっている側面がある。現状ではどれだけ多くの映画館が生き残れるのかが懸念されている。映画館運営大手AMCエンターテインメント・ホールディングス (N:AMC)は13日、状況が改善しなければ年末にも現金資金が枯渇すると明らかにした。

米ハリウッドの著名人たちは米議会に対し、映画館がコロナの休業を乗り切るための資金援助を求めている。ヒット作「ワンダーウーマン」の監督のパティ・ジェンキンス氏もその一人だ。最近のインタビューでは「誰も彼も完全にまひ状態に陥り、あらゆるレベルで事態がどうなっていくか、人々が映画を見る方法にどう影響していくのかを読み取ろうとしている」と話した。

米国の年間の映画公開数は既に減少していた。米映画協会によると、大手製作会社の作品の劇場公開は、2015年は147本だったが、19年は124本になっていた。

投資家はネットフリックスが契約者向けに独占配信するコンテンツ作りを第一に重視していることを高く評価している。しかし、伝統的な映画会社が同じことをしても金銭的に見合うか、疑問視する声もアナリストから出ている。

ライトシェッド・パートナーズのアナリスト、リッチ・グリーンフィールド氏は9月、ディズニーが「ムーラン」で導入したようなオン・デマンド方式のプレミアム料金での配信は、当たるかどうか冒険的な映画会社の大作ではうまくいかないと指摘した。同氏によると、劇場公開が大当たりして20億ドルの興行収入を稼ぎ、これが映画会社の利益8億ドル超につながるのが映画業界のビジネスモデルだという。