アングル:カタール、W杯ファンの「軽微な法違反」に柔軟対応へ

Reuters

発行済 2022年09月23日 07:54

[ドーハ 21日 ロイター] - 11月に始まるワールドカップ(W杯)観戦のためカタールに集まったファンが、公共の場で深酔いするなど軽微な違法行為を犯すとどうなるか──。カタールは保守的なムスリム国家だが、当局はこうした違法行為の訴追を見送る方針だ。カタールが他国の警察向けに行った説明内容を知る外交官など2人の情報提供者がロイターに語った。

開会まで2カ月を切った大会に向けた警備方針はまだ確定していないものの、主催者側は出場資格を獲得した国の外交官や警察に対し、比較的軽微な違反については柔軟に対応する姿勢を示したという。

カタールはアラブの小国で、隣接するサウジアラビアと同様、国民の多くは厳格なイスラム教スンニ派に属している。大会を訪れる100万人以上のサッカーファンのにぎやかな熱狂を受け入れつつ、自国の宗教的伝統を尊重するという微妙なバランスに苦心する様子がうかがえる。

カタールでのW杯主催者である大会実行レガシー最高委員会にコメントを求めたが、回答は得られなかった。

西側諸国の別の外交官は「寛容さが増せば国際社会は喜ぶだろうが、国内保守派の不満を招くリスクはある」と語る。

主催者側は警備に対するアプローチを明確にしていない。多くの国の大使館はファンに対し、他国であれば許容される行動でも処罰を受ける、と警告している。

米国の外交官モーガン・キャッセル氏はユーチューブに投稿した動画で「滞在中はカタールの国内法に従うことになることを忘れないでほしい」と述べている。

カタールの法令によれば、表現の自由は制限されており、同性愛は違法、婚姻関係を伴わない性行為も違法だ。公共の場で酩酊(めいてい)すれば最長6カ月の禁固刑となる可能性があり、公共の場での愛情表現や露出度の高い服装など、他の社会では問題にならないことも逮捕の理由になる恐れがある。

「公共の場で誰かと議論したり侮辱したりすれば逮捕につながる可能性がある。抗議活動や布教活動、無神論を唱えたり、カタール政府やイスラム教を批判することも、ここでは刑事訴追の対象となり得る。ソーシャルメディアへの投稿も対象になる」とキャッセル氏は言う。

<緩和される法律も>

一方で、主催者側はすでに公共の場でのアルコール飲料の販売を制限する厳格な国内法を緩和し、スタジアム周辺ではキックオフの数時間前からビールの提供を認める方針を示している。

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また主催者は、大会に出場する欧州諸国の警察やドーハ駐在の一部の外交官に対し、非公式にではあるが、深酔いや風紀を乱す行為などに関する法律の執行について警察が柔軟な姿勢を示すことを期待している、とも述べている。

カタール側の説明に詳しい人物は、「軽微な違法行為で罰金や逮捕に至ることはないが、警察は、違反者に向かって法を守るよう要請するよう指示されるだろう。公の場でTシャツを脱ぐ者がいれば、元通りに着るよう求められる。ある程度は大目に見られることになる」と語る。

カタール当局はこうした方針を明言はしていないが、大会期間を通じて有効となる特別法は、カタール国内法への違反に対処する上で、W杯の警備最高責任者にかなりの裁量を与えている。

特別法によれば、警備最高責任者は当局との連携のもとで「国内で施行されている法規に違反する行為」への対処などを決定できるとされている。

複数の外交官によれば、W杯主催者は数カ月前に行った外交官向け説明会で、人や資産の安全が脅かされる場合には、警察は厳しい行動を取る予定だと述べたという。

損害を与える可能性のある発煙筒や花火を使うなどの行為に及んだり、あるいは深刻な負傷には至らないとしても乱闘に加わったファンについては、罰金を科せられ、カタール入国やスタジアム入場に必要な「ヘイヤカード」を無効とされることが予想されるという。

「ヘイヤカード」を剥奪されたファンがカタール出国までに猶予期間を与えられるのか、あるいは強制送還に向けて拘束されるのかは明らかでない。

中東地域初のサッカーW杯開催国、また歴代開催国の中でも最も規模の小さい国であるカタールにとって、治安は課題の1つに過ぎない。人口300万人に満たない国が、120万人ものファンを受け入れることになる。湾岸地域のアラブ国家としては前代未聞の挑戦だ。

警備計画に詳しい情報提供者によれば、主催者は出場国に対し、W杯期間中に最低でも4人の警察官を警備の取り組みの一環でとしてカタールに派遣するよう求めた。