焦点:トランプ氏再選なら人事は忠誠心重視、「破滅」に身構える同盟国

Reuters

発行済 2023年12月21日 09:01

Gram Slattery Simon Lewis Idrees Ali Phil Stewart

[ワシントン 18日 ロイター] - トランプ前米大統領が権力の座に返り咲けば、国防総省や国務省、中央情報局(CIA)の要職には自身に忠実な人物を起用し、自らの政策を1期目に比べてもっと自由に反映させる環境を整えようとするだろう。トランプ氏の現側近や元側近、外交関係者ら20人近くに取材した結果、こうした道筋が見えてきた。

そうした人事を通じてトランプ氏は、ウクライナ戦争から中国との貿易問題に至るさまざまな分野で米国の政策を一変させ、1期目において外交政策の「足かせ」と見なしてきた政府機構内部にも思うがままに手を入れることができる、と取材した人々は話している。

2017―21年までの政権時代にトランプ氏は、傍目からは気まぐれで衝動的と受け取られるような自分の構想を、米国の外交安全分野のエスタブリッシュメントに認めさせることに苦労した。

トランプ氏はしばしば、要職者らに対して「仕事が遅い」「先送りする」「自分の方針と違う案を話題にする」などと不満を表明。実際に元国防長官のマーク・エスパー氏は回想録で、メキシコの麻薬犯罪組織にミサイル攻撃を行うというトランプ氏の提案に2回反対したと明かしている。

トランプ政権で4人目、そして最後の国家安全保障担当大統領補佐官を務めたロバート・オブライエン氏は「トランプ氏は、人事こそが政策なのだと認識するに至った。政権発足当初は、トランプ氏の政策案ではなく、おのれの政策案を実行することに興味がある人々が(周りに)多くいた」と語る。

「2期目」のトランプ氏は、忠実な人々を要職に配すれば、1期目にはできなかった外交政策をより迅速かつ効率的に遂行できるとみられている。

今もなおトランプ氏の最有力外交顧問の1人で、頻繁に連絡をしているオブライエン氏は、政権奪回時の優先課題の1つとして、国内総生産(GDP)の2%以上の防衛費を計上しない北大西洋条約機構(NATO)加盟国に貿易関税を課すことを挙げた。

1期目を目指した16年の選挙戦と異なり、トランプ氏は外交経験が豊富で信頼を寄せる人材には事欠かない、と4人の関係者は指摘する。具体的には政権最後の国家情報長官だったジョン・ラトクリフ氏や、元駐独大使リチャード・グレネル氏などだ。

アプリを入手する
Investing.comで、世界の金融市場の最新動向をチェックしましょう!
今すぐダウンロード

これらの人々の政策観には幾分差があるとはいえ、トランプ氏が大統領を退任して以来一貫して同氏を明白に擁護し、NATOとウクライナ向け支援を巡る米国の過大な負担への懸念を表明している点でほぼ一致している。

<破滅シナリオ>

トランプ氏は来年の大統領選に向けた共和党指名候補レースで圧倒的な優位に立っており、正式に指名され、本選で民主党候補が確実視されているバイデン大統領に勝利すれば、トランプ氏の力は1期目よりも「強大化」する公算が大きい。国内外において有効な権力行使の方法を知り尽くしているからだ。

それが現実になった場合に米国がどうなるのかを巡り、各国の外交官は情報収集に躍起となっている。

トランプ氏自身は、ウクライナ戦争を24時間以内に終わらせると主張している以外、2期目に推進する外交政策についてあまり語っていない。

ただロイターが話を聞いた欧州諸国の8人の外交官は、トランプ氏が米国によるNATO加盟国防衛の義務を守るのか疑問を投げかけ、ロシアと戦争しているウクライナへの支援を大幅に削減するのではないかと恐れている。

トランプ氏退任後も側近たちと意見交換を続けているというNATO加盟のある北欧の国の外交官は「(1期目は)われわれは(統治の)準備が整っていなかったが、今度はそうではないという声を聞いた」と語った。

この外交官の仕事の1つは、来年の大統領選で想定されるシナリオとその影響を本国に報告すること。最も好ましいのは米国が自己修正能力を発揮してバイデン氏が再選される展開だが、トランプ氏勝利の場合は、1期目と同じく時折行き過ぎた政策が行われる「マイルドシナリオ」のほか、トランプ氏が政府機構を破壊したり、政敵を次々に追放したりして、権力に抑制と均衡(チェック・アンド・バランス)を働かせる米政治システムを弱体化させる「破滅シナリオ」があるという。

<孤立主義に傾斜>

トランプ政権時代に国防総省の高官だったマイケル・マルロイ氏は、トランプ氏が提唱する孤立主義的な外交政策を支持し、同氏に逆らわない人物が起用される確率が高いだろうとみている。

マルロイ氏は「トランプ氏への忠誠度が最重要になると思う。トランプ氏が信じる外交政策、つまりグローバリスト(的な政策)ではなく米国をより重視するという考えを確固として信奉することだ」と述べた。

1期目のトランプ氏は、トランスジェンダーの軍への入隊からシリアからの部隊撤退まで、国防総省に関するさまざまな問題で自身が起用した高官らと衝突してきた。1人目の国防長官で18年に辞任したジム・マティス氏も、トランプ氏と政策面で著しく意見の食い違いがあったと認めている。

トランプ政権時代の駐スイス大使で、現在は陣営の資金調達を担当しているエド・マクマラン氏は、トランプ氏は2期目において外交政策の主要ポストに忠誠心がなかったり、言うことを聞かなかったりする人物を置くのを避けることが政権運営の成功に必須だと、十分認識しているとの見方を示した。

一方トランプ氏陣営の公式政策サイト「アジェンダ47」によると、安全保障に関わる中堅以下の政府職員のうち「ならず者」とみなした対象者を一掃する計画もあるという。

どんな政権でも中立的な立場で奉仕することが前提となっている米国の政府機構に対してそのような措置が講じられた例はほとんどない。

トランプ氏は1期目の末期に、公務員をより簡単な手続きで解雇できるようにする大統領令を発し、それは全面的に実施されないまま終わったが、政権奪回後に再導入すると明言している。

またアジェンダ47に示された文書に基づくと、トランプ氏は「ディープステート(闇の政府)」による権力乱用に関連する書類を公開するための「真実と和解の委員会」立ち上げや、情報収集活動をリアルタイムで監視する機関の設置も表明した。

トランプ氏が「国務省と国防総省、国家安全保障の既存体制は私の政権が終わるまでに非常に異なる場所になっている」と語る政策動画がある。

<NATO脱退説も>

トランプ氏は政権を奪回すれば中国の最恵国待遇を打ち切り、欧州諸国には防衛費増額を求めると約束している。

ワシントンに駐在する欧州各国の外交官が注視するのは、特に米国のウクライナ支援が続くのかどうかと、NATOに米国が関与し続けるのかという問題だ。