杉山健太郎
[東京 6日 ロイター] - 政府が事業規模26兆円にのぼる経済対策を決定し、柱の一つに災害からの復旧・復興と安全・安心の確保などを盛り込んだ。株式市場からは、米中通商協議以外の国内テーマ登場を歓迎する声が出ている。6日の東京株式市場では一部の関連銘柄が業績期待で上昇した。今後も息の長いテーマになりそうだが、事業会社からは人材や下請けの確保に伴うコストアップなどを懸念する声も上がっている。
政府の経済対策決定を受け、6日の東京株式市場では、国土強靭化や災害対策に関連する銘柄群に注目が集まった。環境調査・分析の大手、いであ (T:9768)が前日比15%超上昇し東証1部で値上がり率2位となったほか、地質調査の応用地質 (T:9755)、特殊土木工事の日特建設 (T:1929)、インフラ補修工事のショーボンドホールディングス (T:1414)なども買われた。
市場からは「セメント株なども上がっている。建設関連は低迷していた部分もあるが、ようやくテーマが出てきて動きやすくなってきた。実需がこれから出てくるので長めのテーマになる」(いちよし証券の銘柄情報課長、及川敬司氏)との声が出ている。
直近では台風による被害にスポットが当たっているものの、国内の道路橋や河川管理施設、港湾岸壁などは老朽化が進んでいる。
岡三証券が国土交通省の推計(2018年11月)を元にまとめたレポートによると、今後30年間で必要となる社会インフラの維持管理・更新費は約195兆円になる見通し。機能に不具合が生じる前に修繕する予防保全をしなかった場合は285兆円まで膨らむことが予想されているという。
岡三証券の山本信一シニアストラテジストは「予防保全だけでも年間6兆円程度の費用が必要となることから、社会インフラの防災・減災関連銘柄に恩恵がある」と指摘する。
<人材確保などに課題>
国土強靭化に絡む銘柄の中には、すでに過去の災害対応で業績面で好影響が出ているところもある。いであは11月5日、海洋環境調査や土壌汚染対策に加え、2018年7月豪雨への対応を含む防災・減災関連業務やインフラ施設の設計・維持管理業務などの売り上げを計上したことなどが貢献し、2019年12月期の連結当期利益予想を前回予想比で47.4%上方修正した。
日特建設は11月8日発表した19年4─9月期の連結営業利益が前年同期比67.3%増。東日本大震災や熊本地震などに絡む大型工事の利益率が改善したことが貢献した。今年に発生した災害への対応については「応急対策的な工事はしているが、本格的な復旧は来年度以降と思われる。好採算の工事を考えて受注活動していく」(広報課長の佐藤忠生氏)としている。
国土強靭化や災害対策が息の長いテーマとなり、受注環境的には順調と言えそうだが、それだけに人材確保が懸念材料になりつつあるという。「社員や当社から仕事を回す下請け業者の確保が難しくなってきている。仕事を取ろうと思っても施工する社員や下請けの業者がいなければ取れない。今期の決算には大きな影響はないものの、来期以降はコストアップの可能性もなくはない」(同)と話す。
業界関係者の中からは「新卒採用もなかなか厳しくなってきた。働き方改革の最中、決められた時間内で質の高い仕事をしていくのかも難しいところだ」との声も聞かれる。人材を確保しつつ、いかに利益率を維持していくかも各社のテーマとなりそうだ。
(編集:青山敦子 グラフ作成:田中志保)