アングル:人口減の長崎・青森で地域再生に成果、地銀が「頭脳」に

Reuters

発行済 2020年10月30日 14:42

更新済 2020年10月30日 15:18

和田崇彦 木原麗花

[長崎市/東京 30日 ロイター] - 長崎にITなどの企業が進出、青森では創業者が過去最多――人口減に苦しむ地方で、経済再生に向けた取り組みが成果を出している。「成功例」に共通するのは官民一体で取り組んでいる点で、特に地方銀行は「地域における頭脳」の役割を期待されている。専門家からは、都市部から地方への移住促進には、地域の未来像づくりは地元に任せる一方で政府は税制優遇を進めるなど、国と地方の役割分担が欠かせないとの指摘が出ている。

<IT・金融の進出相次ぐ長崎、官民で漁業収入向上プロジェクトも>

九州で最も人口減少率が高い長崎県に、大企業のグループ企業が相次いで進出している。企業が設備投資や雇用の計画を達成すると助成金を受けられる立地協定があり、2019年には富士フイルムホールディングス (T:4901)、京セラ (T:6971)、デンソー (T:6902)、楽天 (T:4755)のグループ企業などが進出。ITや金融系を中心に13社が長崎県と協定を結んだ。その数は08年以降で最多で、県によると13件の計画を合計すると559人の雇用が見込まれている。

長崎県内の大学では相次いで情報系の学部が新設されており、IT人材を確保したいという狙いも企業側にはある。また「長崎金融バックオフィスセンター構想」の下、県は金融機関のバックオフィス機能の誘致に力を入れており、こうした施策が実を結んだことになる。

事業者の所得向上に向け、官民一体の取り組みも進行中だ。出島にあるスタートアップ企業の交流スペース「CO-DEJIMA」(コデジマ)を拠点に4月、十八親和銀行、長崎県、長崎市の職員で構成されるプロジェクトが立ち上がった。地域の課題を掘り起こし、解決策を地元の人々や都市部の企業などとともに作り上げ、新しいビジネスにつなげることを目指す。

プロジェクトチームが現在手掛けているものの1つが、長崎産の魚を定額制で首都圏の消費者に配送する「長崎おさかなサブスク(仮称)」。長崎県は漁業生産量が全国2位だが、近年では漁獲量の減少や魚の単価の下落により漁業者の収入は減少傾向にある。プロジェクトは漁業関連事業者の所得向上に向け、地元企業などのほか、伊藤忠テクノソリューションズ (T:4739)が運営する「Innovation Space DEJIMA」の支援を受け、東京側の事業共創パートナーである伊藤忠インタラクティブ(東京都港区)と協業。来年3月までに実証実験を成功させたい考えだ。

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<青森は創業支援で成果、銀行も融資で協力>

長崎県と同じように人口減の克服を最重要課題に取り組んでいるのが、減少率が全国2位の青森県だ。創業・起業の促進を対策の柱に据え、青森、弘前、八戸など8市に拠点を置いて創業支援の専門家であるインキュベーション・マネージャーが事業計画から創業まで一貫してサポートする。青森銀行 (T:8342)やみちのく銀行 (T:8350)が融資を行い、官民が連携して創業を支援している。

県の支援拠点を利用した創業者数は19年度は142名と、06年度の取り組み開始以降で最多。このうち17名は、U・I・Jターンによる創業者だ。

みちのく銀は18年10月、東北の地銀で初めて創業支援のための交流会「地域クラウド交流会」を始めた。創業間もない事業者の人脈づくりや、計画をプレゼンし参加者の投票で会合の参加費の一部を分配する取り組みも行っている。新型コロナウイルスの感染拡大で現在は中断しているが、オンライン化などの開催方法を検討している。

みちのく銀の創業支援融資の19年度の実績は231先、29.5億円。地域創生部の小山内創祐氏は「創業を希望する人の事業プランを具体的な数値にしていく過程で、起業を目指す人の人柄も重視している」と話す。「県を挙げて創業支援に注力しているため、創業しやすい環境にある。創業後も持続的に収益を上げていくことができるよう、みちのく銀ではアフターフォローに力を入れている」という。

<未来像は地域がつくる、地域金融機関が頭脳に>

長崎や青森での「成功例」で目立つのは、地方銀行の積極的な関与だ。長崎・コデジマのプロジェクトに携わる十八親和銀行・地域振興部の鍬先晃生調査役は「地域に入っていき、一緒に汗をかくことで地域経済に貢献するというのはそもそも地銀がやらないといけないことだ」と話す。「長崎には課題が山積しており、新規事業創生のサンドボックスになれる。一方で、東京にはリソースを持っている大企業が多数存在する。双方が補完し合うプラットフォームを作りたい」と意気込む。

日銀は22日公表の金融システムリポートで、金融機関の金融仲介について、本業⽀援、事業の承継・譲渡・再編など「企業の実情に応じた有効な⽀援を⾏っていくことがいっそう重要になっていく」と指摘。金融機関の取り組みが資源の効率的配分を通じ、国や地域の生産性や活力の向上につながるとしている。

富士通総研の若生幸也公共政策研究センター長は、国の地方創生の総合プランには「女性活躍」や「一億総活躍」といった、本来であれば国が担うべきテーマが混在しており、「地域の未来像は、国ではなく地域が作るべきだ」と話す。そして、地域金融機関が「地域における頭脳」となり、地域経済の再生プランを作っていくべきと指摘する。「地域金融機関が保有する膨大なデータについて(個人情報などの)秘匿処理をして地域経済の分析をしていけば、政府の統計よりも精密なデータが出てくるはずだ」という。