アングル:ロシアの偵察機から米国製半導体、軍事転用どう防ぐ

Reuters

発行済 2022年04月11日 07:31

[オークランド(米カリフォルニア州) 1日 ロイター] - 米シリコンバレーの半導体製造企業マーベルは、2016年に回収されたロシアの偵察用ドローンの中から自社製半導体が見つかったことを知り、その経緯を調べ始めた。

この半導体の価格は1個2ドル(約245円)にも満たない。2009年にアジアの流通業者に出荷され、アジアの別の業者に販売されたが、後者はその後廃業した。

マーベル・テクノロジー・グループのクリス・クープマンス最高執行責任者(COO)は最近のインタビューで、「それ以降の追跡は不可能だった」と語った。

数年後、同じ種類の半導体がリトアニアで回収されたドローンからも発見された。

マーベルの場合と同様に、自社のローエンド製品の多くが最終的にどこで使われているかを追跡する能力が半導体メーカー側にないことを示す例は無数にある、と経営幹部や専門家は語る。これでは、自国製テクノロジーのロシア向け流出を阻止することを意図した米国の新たな制裁の効果が損なわれかねない。

スーパーコンピューターを構築可能なハイエンドの高性能半導体は企業に直接販売される一方で、たとえば電源制御といった単機能の低価格半導体はコモディティー的な存在として、しばしばリセラー数社を経由して何らかの機器に搭載される。

テックインサイツの半導体エコノミストであるダン・ハッチソン氏は、世界の半導体産業による今年の半導体出荷量は5780億個になると予想されるが、そのうち64%はこうした「コモディティー」だと説明した。

世界半導体市場統計(WSTS)によれば、ウクライナ侵攻に伴う制裁が開始される前、グローバルな半導体購入量のうちロシアは0.1%に届いていなかった。だが、西側による新たな制裁は、こうした数字には表われない脅威を明らかにした格好だ。

ドローンからマーベル製半導体を発見したのは、欧州連合(EU)とドイツによる出資で設立された研究機関コンフリクト・アーマメント・リサーチ(CAR)。オペレーション担当の副ディレクターを務めるダミアン・スプリーターズ氏は、「私たちが確認したドローンは、いずれも非武装だった」と述べた。

「だが、報告に記載したドローンの中には、『フォルポスト』のように武装バージョンが(ウクライナにおける)現在の紛争で使用されているものもある」と語った。

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マーベルが自社製半導体の追跡作業を開始するきっかけとなった報告書はCARが昨年公表したもので、ロシアが使用するドローンからは、インテル、NXP、アナログ・デバイセズ、サムスン電子、テキサス・インスツルメンツ、STマイクロエレクトロニクス製のチップも確認されたとしている。

テキサス・インスツルメンツとSTマイクロエレクトロニクスは、コメント要請への回答を控えている。NXPとアナログ・デバイセズは、制裁を遵守しているとしている。インテルは、自社製品を人権侵害目的に利用することに反対する立場を表明している。サムスンは、軍事用の半導体は製造していないと回答した。

ドローンや誘導ミサイル、ヘリコプター、ジェット戦闘機、戦闘用車両、電子戦争装置のような軍事兵器には、いずれも半導体が欠かせない。専門家によれば、十分に実績のある旧型の半導体が使用されることも多いという。今回の米国による制裁下では、最もベーシックな半導体でさえ、禁輸対象であるロシア関連団体には出荷できない。

半導体と輸出規制の専門家で、ベルリナー・コーコラン&ロウ法律事務所に所属するダニエル・フィッシャー・オーウェンズ氏は、国際武器取引規則の管理対象となっている最も機密性の高い半導体については、仮にその半導体が米国の禁止リストに掲載されている団体の手に渡った場合には、販売した米国企業が責任を問われる可能性もあるとの見解を示した。

<「薬物ビジネスのようなもの」>

半導体の行き先を突き止めるのは、薬物の流れの追跡に似ている、と専門家は語る。

「薬物ビジネスのようなものだ」と話すのは、ワシントンを拠点とする戦略国際問題研究所で技術政策プログラム担当のディレクターを務めるジェームズ・ルイス氏。「口利き屋がいて、仲買人がいて、資金洗浄が行われている。(略) 闇市場での流通ネットワークが存在している」

ルイス氏によれば、対ロシア制裁で肝心なのは半導体1個1個を追跡することではなく、そうしたサプライチェーンを途絶させることで、情報機関はそこに取り組んでいるという。

問題を解決するには、技術面でまったく新しいアプローチが必要かもしれない。

グーグル元会長のエリック・シュミット氏は、最近行われたロイターによるインタビューの中で、ハイエンドのプロセッサについて、「半導体の行き先を知ることは恐らく非常に良いことだ。たとえば、すべての半導体に公開鍵・秘密鍵のペアと実質的に同じ仕組みを搭載し、認証に成功した場合のみ半導体を動作させるようにすることもできる」と語った。

マーベルでは、フィンガープリント(指紋)による追跡機能をサポートする製品を増やしているところで、業界内のパートナーや顧客と協力して、半導体追跡を進化させていくよう努めているという。業界団体グローバル・セミコンダクター・アライアンス(GSA)のテクノロジー責任者であるトム・カチューラス氏は、GSAでは加盟企業に対し、半導体にタグ付けして追跡できるような「トラステッドIoTエコシステム・セキュリティ(TIES)」の構築に取り組むよう呼びかけていると語る。

だが1個2ドルの半導体でそれを実現するのは、論外なほど値上げしない限りはかなり難しいだろう。そうなると、製造プロセスと規制、そして恐らく「意志」が問われることになりかねない。