エノモト Research Memo(4):高成長が期待されるクリップボンディングリードフレーム

Fisco

発行済 2022年12月27日 15:34

更新済 2022年12月27日 16:15

■事業概要

2. エノモト (TYO:6928)製品と市場環境
近年EVといった電動車やスマートフォンなどデジタル機器の電力損失の低減、新たな電源技術の開発・発展や高効率な電力供給といった環境的側面から、高出力・省エネを支える高機能のパワー半導体の需要が急増している。
それらに使用されるリードフレームには高電圧・高電流及び高温への対応に加えて、従来品を超える高い精度が要求されることから、同社の技術力を存分に生かせる分野と言うことができる。
また、様々な機器が開発されているウェアラブル端末向けには、同社の世界最小クラスの狭ピッチコネクタなどが利用されている。


(1) 電子部品業界の動きと同社の対応
1990年代の電子部品業界は、パソコンの普及やデジタル化の流れのなかで半導体向け需要が拡大したが、2000年代に入ってITバブルが崩壊すると低迷期に入った。
その後、LEDの普及とともにいったん事業環境は改善したが、2008年のリーマンショックにより再び低迷し、2011年の東日本大震災、急激な円安、中韓メーカーの低価格での参入などが続き、国内の電子部品業界にとって厳しい時代となった。
2015年頃になるとスマートフォン普及という追い風が強まったが、それまでの業界環境の悪化や価格競争によって市場を退出したメーカーが多く、高機能な電子部品を安定かつ大量に供給できるメーカーが少なくなっていた。
同社は、高い技術力によって年々高度化するメーカーの技術要請に対応するとともに、生産工程を継続して改善してきたことから、今や「残存者メリット」を享受しやすい環境になったと言える。
足元では、普及と高機能化が一段落したスマートフォン向けが鈍る一方、成長期にある車載向けやウェアラブル端末向けの増加ピッチが上がっている。
特に車載向けで、同社が早くから狙いを定め技術を蓄積してきた各種スイッチに使われるパワー半導体が車1台当たりの搭載数を飛躍的に増加させ、ウェアラブル端末では、狭ピッチコネクタの高機能化・高精度化・超小型化がスマートフォン以上に急速に進んでいる。
一方で、環境にやさしく効率的な機器向けのニーズも大きくなっている。


(2) パワー半導体
パワー半導体は、単体で電力の制御や変換を行うことができ、大きな電圧・電流も扱えることが特徴である。
「パワーデバイス」とも呼ばれ、スマートフォンやパソコンのみならず、冷蔵庫やエアコンなど一般家庭向け機器、EV、データセンター、太陽光発電まで幅広く使われている。
特に足元で、自動車の電動化や自動運転、センシング技術などの普及により車載向けが急増しており、中長期的にも、自動車の進化とともに需要の拡大が継続すると見られている。
環境的な側面からも、新たな発電技術の開発・発展や高効率な電力供給を支える高機能パワー半導体が注目されている。
さらに、SiCやGaN※といった素材をパワー半導体に使うことで、高電圧・高電流化に加え低損失を実現できるため、高出力で省エネという異なる方向の要請にも対応することが可能となる。
パワー半導体は、高度な技術が要求されるうえアナログ的な部分も残る、多品種少量生産の装置であるため、参入障壁が高い分野とされている。
一方で、パワー半導体を構成する各種部材は、コロナ禍でボトムを形成した2020年を起点に、10年で2.5倍の5,000億円近くの市場規模に成長するとの予測もある。
そのうち約47%が、同社のターゲットとなるリードフレームと推定されている。


※SiC(Silicon Carbide):炭化ケイ素、GaN(Gallium Nitride):窒化ガリウム


(3) クリップボンディングリードフレーム
車載ECU(電子制御ユニット)や産業機器向けパワー半導体の高電圧・高電流化及び自動車1台当たり搭載数の増加に伴い、リードフレームに対し、小型化や高電圧化・高電流化、モジュール化といった様々な技術が同時に求められている。
こうした状況のなか、同社が他社に先駆けて本格量産を開始したクリップボンディングリードフレームが、高信頼性と省スペース性によって業界の注目を集めている。
クリップボンディングリードフレームは、クリップとリードフレームでチップを挟み込むため、接触面積が広くなって構造上通電容量が大きくなることから、従来のリードフレームを大きく上回る電気特性と熱特性があり、高い信頼性が得られる。
この際、非接触部分ができて電流量が低下することを防ぐため、平坦度や清浄度、位置精度など高品質を担保する非常に高い技術力が求められる。
なお、シリコンより電流を流せるSiCやGaNに素材が変わると、接触面積が広いクリップボンディングリードフレームはより有利になり、一層の需要拡大につながると言われている。
また要求技術が高い分、付加価値も高くなるため、同社の利益率向上にも寄与することが予想される。
同社は既にEVで先行する中国において本格量産を開始している。
また、国内でも引き合いが強まっており、クリップボンディングリードフレームの生産能力を2023年3月期に前倒して増強することになった。
こうした背景により、同社のパワー半導体用リードフレームに占めるクリップボンディングリードフレームの売上構成比率は、2022年3月期の13%から2024年3月期には32%まで上昇する見通しとなっている。
なお、競合となりそうな内外企業は同社の品質や技術力に追いつけないようで、大きな差別化要素となっているようだ。


(4) 車載向けやGXにおける需要見通し
クリップボンディングリードフレームは、後工程を経てパワーデバイスモジュールを構成することで、車載に使用される。
具体的には、モーターなどパワートレイン制御、ステアリングなど車両制御、パワーウィンドウなどボディ制御といった制御系部品に40品種以上が利用されている。
車載向けパワーデバイスモジュールは、日本ではHV(Hybrid Vehicle)向け、欧州、北米、中国ではEVやPHV(Plugin Hybrid Vehicle)向けに需要が拡大する見通しとなっている(もちろん日本でもEVが急成長する素地はある)。
いずれにしろ、車載向けパワーデバイスモジュールの出荷数量は、2021年から2030年までの10年間で年平均12.4%の成長を続けるとの予測もある。
一方、GX(グリーントランスフォーメーション)においてもパワー半導体への期待は大きく、需要は中期的に2倍以上になると言われている。


効率的な電力の変換や制御はすべての分野・製品において重要であり、高機能パワー半導体がキーデバイスとなる。
特に世界の電力の50~60%を消費していると言われるモーターは、電力を効率よく制御するインバーター化が省エネの必須条件であり、同社の技術が欠かせないものとなっている。


(5) コネクタ用部品の市場環境
コネクタ用部品は、高品質大量生産されるスマートフォンやウェアラブル端末向けの超微細な部品から、自動車向けの特殊で大きな部品まで幅広く対応している。
具体的には、スマートフォンにはスタンダードモデルからハイエンドモデルにまで組み込まれているBtoBコネクタ、ウェアラブル端末向けには世界最小クラスの狭ピッチコネクタ、自動車向けにはステアリングのエアバッグ起動信号やハザードスイッチなどスイッチ関連などに使われている。
コネクタ市場は、2020年以降において車載向けの増加やスマートフォンの高機能化、ウェアラブル端末の登場が市場をけん引してきたが、現在のところスマートフォン向けは高止まり傾向にある。
しかしその後、自動車1台当たり搭載数の増加やウェアラブル端末向けの高機能化・ワイヤレス化によって引き続き拡大しており、2021年から2026年まで年平均で7.1%の成長が続くとの予測もある。
同社のコネクタは、内外工場における一貫生産と品質管理が評価されており、パワー半導体用リードフレームに次ぐもう1つの成長の柱となっている。


(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)

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