筑波精工 Research Memo(7):自動車のEV化は追い風、本格的な立ち上がりは2024年以降

Fisco

発行済 2023年06月15日 12:07

*12:07JST 筑波精工 Research Memo(7):自動車のEV化は追い風、本格的な立ち上がりは2024年以降 ■中長期の展望

筑波精工 (TYO:6596)の今後の成長は、1)自動車のEV化見通し、2)パワー半導体(IGBTやMOSFET)の需要動向、3)ウエハ薄型化・大口径化の見通し、といった自動車のEV化を中心とした3つの要素がポイントと言える。


1. 自動車のEV化とパワー半導体
自動車EV化に向けた動きについて、経済産業省「第2回モビリティの構造変化と2030年以降に向けた自動車政策の方向性に関する検討会」資料によると、日本のEV及びプラグイン・ハイブリッド車(PHEV)は、2030年新車販売台数の20~30%(2019年新車販売台数の約20~30倍)とする普及目標を掲げている。
欧州・中国においても自動車EV化の普及を目指し補助金政策を実施していると言う。
こうした動きから、自動車EV化への動きは今後も高まりを見せていくと予想される。
また自動車EV化には不可欠な部品であるIGBT等のパワー半導体の需要も併せて伸びることになる。


半導体で使用するウエハは、発熱量を抑えるためにできる限り薄型化する必要がある。
IGBTやMOSFETのようなパワー半導体においては、電流をウエハ表面と裏面の間を高速スイッチングする必要があるため、ウエハは電圧を流す縦方向を特に薄くする必要がある。
さらにウエハを大口径化する動きもある。
従来は6インチ(150mm)、8インチ(200mm)であったウエハを12インチ(300mm)へ移行する動きが高まっている。
メーカーにとっては径を大きくすることで、1枚のウエハからより多くのデバイスを作成することにより生産効率を上げ、半導体1個当たりの生産コストを下げることが可能となるためである。
ウエハの薄型化・大口径化が進むと、接着剤による薄型ウエハ補強では、工程終了後にウエハを接着面から剥離する際に細かなひび(マイクロクラックと呼ばれる)が発生し、歩留まりが急激に悪化する。
大口径化による生産性向上に加え、発熱の原因となるオン抵抗値を小さくするためにウエハは一段と薄くなっていく。
このように取り回しがより困難な薄型で大口径のウエハを扱う場合に、どうしても利用する必要のある「Supporter」に匹敵する治具はいまのところほかに存在していない。
したがって今後の薄型化・大口径化されたウエハプロセス工程では、「Supporter」による電界を使った吸着保持方式に業界全体がシフトを進める可能性が高く、既に一部のメーカーでは実装実験が行われている。
そうしたことからも今後同社の静電チャック「Supporter」の受注が増加する可能性が高いと言える。


2. 潜在市場の推測
上記のような事業環境から、同社の先行きは楽しみでもある。
しかしシリコンウエハの薄型化が進むためには、まだ乗り越えるべき課題・壁も多い。
自動車のEV化はさらに進むと見られるが、本格的にEV化が進むのは、当初同社によると2023年(2024年3月期)以降としていたが、実際は1年ほど遅れる気配である。
したがって、同社の業績が本格的に浮上するのも2025年3月期からと予想される。


では今後、潜在的な市場はどの程度あるのだろうか。
同社の説明によると、現在の薄型IGBT生産の主力は6インチウエハだが、2023年秋からは8インチウエハでの80μが本格的に稼働する見通しだと言う。
そして一部では12インチが立ち上がるようだ。
この12インチウエハ1枚からは自動車約3台分のIGBTが取れると言う。
したがって今後のEV自動車生産予測から、同社では12インチウエハ用「Supporter」の需要の高まりについては、遅くとも2026年3月期に7,000枚/年になると見ているようだ。


「Supporter」の価格は正式には開示されていないが、取材に対して会社は「1枚数千米ドルのレベル」と述べている。
仮にこの価格を3千米ドル、1米ドルを135円とすると、2026年3月期の「Supporter」の売上高は、7,000×3,000×135=2,835百万円※となる可能性がある。


※これらの数字は弊社推測によるもので、同社から正式に発表された数字ではない。



3. 現在の進捗状況
同社は今回、初めて量産用の「Supporter」を海外大手ファウンドリから受注したが、その概要は以下とおりである。

・今回、同社が受注したのは、世界初の「8インチ80μ量産用」である。
ユーザーの本格稼働は2023年秋の予定で、同社からの出荷もこの時期に向けて増加していく。

・今回の量産立ち上げにおいては、「インプランテーション」「レーザーアニーリング」「スパッタリング」「CPテスト」の4工程(プロセス)で保持材が必要であったが、同社が受注できたのは「CPテスト」用だけであり、残りの3工程は、「接着方式」が採用された。

・「8インチ80μ」までは接着方式も可能であり、ユーザーは過去の実績を重視して3工程においては接着方式を採用した(注:6インチまでは「CPテスト」が不要で、接着方式も「CPテスト」での実績はなかった)。

・この海外大手ファウンドリは現在、8インチ7万枚/月の能力を有しているが、今回発注したのは1万枚分だけであり、今後残りのラインについても80μ化を進めると、需要そのものが増加する可能性がある。
さらに、「CPテスト」での実績を踏まえて、ほかの3工程においても同社の「Supporter」を採用する可能性はある。

・弊社の大胆な仮説だが、全ライン7万枚分及び4工程すべてで同社の「Supporter」が採用されれば、今後は今回の受注の28倍(=7×4)の可能性があると考えている。


さらに注目すべきは、12インチへの展開である。
同社によれば、既に12インチ月産15万枚を準備している顧客がいるようだが、この12インチの分野においては、保持材として同社の「Supporter」以外に今のところ競合する方法は見当たらないようだ。
さらに同社によれば、12インチ用の価格は8インチ用の約1.7倍とのことであり、今後は8インチでの同社製品の採用増とともに、12インチへの展開も注視する必要がある。


4. もう1つの潜在市場(MOSFET用)とIGBTの広がり
同社製品(主に「Supporter」)に対して、もう1つ大きな市場として期待されるのがMOSFET用だ。
現在、主に自動車用と携帯電話用にバッテリーの大容量化が進んでおり、これらのバッテリーにおいては同時に高速(短時間)での充電が求められている。
高速(短時間)で充電を行うためには、高電圧をかける必要があり、これに耐えられるMOSFET半導体が必須部品となる。
ただし、MOSFET半導体の厚さは約100μであるが、サイズが大きくなるためデバイスメーカーとしては少しでも生産効率を上げるために8インチウエハでの生産を標準としている。
しかしその生産工程ではウエハの「反り」が大きな問題となっているが、これに対応できるのが同社の「Supporter」である。


同社ではMOSFET用としての「Supporter」の需要は2024年3月期には約1,500枚/年に達すると見ている。
IGBT用と並んで楽しみな市場である。
MOSFET用(8インチ用)の価格は、IGBT用(12インチ用)よりは低いと予想されるが、将来の売上高は年間200~300百万円に上る可能性はあると弊社では見ている。


また最近では、薄型IGBT市場そのものが広がってきている点も注目だ。
現在、最も需要が期待されているのがEV自動車なのは言うまでもないが、近年では風力発電用、家電用にも需要が広がっている。


(執筆:フィスコ客員アナリスト 寺島 昇)

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