アングル:EV電池材料の「人造黒鉛」、中国が圧倒的優位の現実

Reuters

発行済 2023年09月16日 08:09

Paul Lienert Nick Carey

[12日 ロイター] - 電気自動車(EV)の重要な電池材料である黒鉛は、中国が市場をがっちりと握っている。欧米は中国に対抗するために「人造黒鉛」と呼ばれる新しい技術への投資を進めているが、この分野でも中国が圧倒的な優位に立ち、欧米は苦しい戦いを迫られそうだ。

人造黒鉛は19世紀後半には開発されていたが、EV電池用材料に浮上したのはこの10年ほどに過ぎない。利用が急速に拡大しており、ベンチマーク・ミネラル・インテリジェンスは、2025年までにEV用電池の負極市場の3分の2近くを占める可能性があると予測している。

EV1台の電池パックには負極用に平均50─100キログラムの黒鉛が必要で、これはリチウムの約2倍の量に相当する。

調査会社モードー・インテリジェンスによると、人造黒鉛市場は今後5年間で40%余り拡大し、2028年には42億ドル達すると予想されている。

ところが、新分野を開拓しようとしている企業は、中国との手ごわい競争に直面している。

EV用電池の負極は、ほぼ全てで天然黒鉛が使われているおり、中国はその天然黒鉛の精製市場で90%以上のシェアを持つ。貝特瑞新材料集団(BTR)や杉杉股份など中国の電池材料大手は、人造黒鉛の生産増強に向けて数億ドルを投資している。

英調査会社ロー・モーションのアナリスト、ビクトリア・ヒュギル氏は、電池のサプライチェーン(供給網)における人造黒鉛の導入は「中国で成熟し、商業的に成功している」と指摘した。

オーストラリアの電池材料供給業者、ノボニックスのクリス・バーンズ最高経営責任者(CEO)は「特に負極においては、中国における参入企業の数と規模を見てあ然とする」と指摘。「BTRや杉杉などの企業は、世界の他の企業と比べものにならないペースで成長を続けている」という。

ヒュギル氏によると、小規模ながら成長が続く人造黒鉛市場は中国メーカーが大きなシェアを占めるが、米国に本拠を置くアノビオンやノボニックス、ノルウェーのビアノードといった企業は、二つの要因にひかれて新規参入した。

一つは「天然黒鉛の新しい採掘施設を設けるよりも、人造黒鉛の生産施設を立ち上げる方が容易」なことで、これはメーカーが昨年の「米インフレ抑制法(IRA)」の優遇措置を利用し、国内や自由貿易協定締結国に人造黒鉛の生産能力を構築することができるからだ。また、人造黒鉛の施設は、黒鉛鉱山の近くに設ける必要がないという。

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米ジョージア州ベインブリッジのアノビオンの工場(総工費8億ドル)や、米テネシー州チャタヌーガにあるノボニックスの工場(同1億6000万ドル)など、米国で新たに立ち上がった人造黒鉛生産拠点は、IRAや「インフラ投資・雇用法」に盛り込まれた優遇措置の恩恵を受けられる、と企業幹部は述べている。

ノルスク・ハイドロと電池メーカーのエルケムが共同出資するビアノードは、欧州と北米の両方に人造黒鉛工場を建設し、2030年までに最大でEV200万台分の年間供給能力を備えることを目指している。

これは画期的な取り組みだ。ビアノードの幹部によると、製造過程において再生可能エネルギーを動力源とし、温室効果ガス排出量が中国の黒鉛精製業者よりも90%少ない。

こうした取り組みは、人造黒鉛の製造が化石燃料に頼っているため持続可能ではない、という懸念を払拭するかもしれない。この幹部によると、人造黒鉛には充電時間の短縮や電池寿命の延長といった利点もある。

他の専門家からは、人造黒鉛は一般的に天然黒鉛よりも純度が高く、性能の予測可能性に優れているとの評価も出ている。

さらに黒鉛は人造と天然の価格差が今年に入って大きく縮まり、電池メーカーは負極に配合する合成黒鉛の割合をさらに増やしている。

世界最大のEV電池メーカーである中国寧徳時代新能源科技(CATL)の元最高技術責任者(CTO)、ボブ・ガリエン氏は「クリーンで安定した電池材料へのニーズの高まりは、人造黒鉛が台頭する主な原動力の一つ」だと述べている。