焦点:テスラ議決権巡るマスク氏の発言、CEO義務違反の可能性

Reuters

発行済 2024年01月17日 18:22

Aditya Soni Akash Sriram Hyunjoo Jin

[16日 ロイター] - 米電気自動車(EV)大手テスラの議決権をもっと多く獲得できないなら、人工知能(AI)やロボット開発は同社の外でやりたい――。イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が15日、X(旧ツイッター)に投稿したこの発言が波紋を広げている。

企業統治専門家やアナリストらの見方では、マスク氏がCEOとしての義務に違反し、ひいてはテスラの企業価値が損なわれかねないからだ。

マスク氏は、自身が25%前後のテスラ議決権を確保しない限り、同社をAIやロボット関連技術のリーダーに育てることについて「落ち着いた気持ちになれない」と表明。「影響力を持つには十分だが私の判断を覆せないほどではない」株式保有が実現しなければ、テスラの外でそうした技術の製品を手がけていくのが好ましいと言い切った。

テスラは高度な自動運転支援システム「フルセルフドライビング(FSD)」のソフトウエアや、人型ロボットの試作機を手がけていることもあり、マスク氏は長らく同社を「AIとロボットの企業」として売り出してきた。それだけに今回の発言は、突然の姿勢転換となった。

テュレーン法科大学院のアン・リプトン教授は「マスク氏のツイートで問題なのは、現在のCEOと取締役の権限内で、自らの好みに基づいてテスラの収益機会を台無しにするだけでなく、同氏個人として所有する企業にそれを移転させると示唆していることだ。これは利益相反で、マスク氏がテスラに対して負っているフィデューシャリー・デューティ(注意義務)に違反すると読み取れる」と述べた。

何人かのアナリストも、テスラ社外に技術開発が移行されれば、成長のチャンスが奪われ、同社の価値に打撃を与える一方になるとの見方を示した。

一般的にCEOや取締役は、所属企業から自己の利益のために事業機会を奪うことは法的に禁止されている。

デラウェア大学ワインバーグ企業統治センターのチャールズ・エリソン所長は「テスラが提唱してきた技術を同社の許可なく、マスク氏が勝手に推進するのは違法となる」と指摘した。

マスク氏はXやAI、スペースXなど複数の企業を所有しつつ、テスラにとっては経営者であると同時に持ち分13%の筆頭株主となっている。

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しかし、過去2年間でマスク氏のテスラ保有株は減少した。ツイッターの買収資金として一部のテスラ株を売却したからだ。

マスク氏が全てのストックオプションの権利を行使すれば、持ち分は23%近くに高まるが、行使に関連した税金支払いのためにある程度の保有株売却を迫られるかもしれない。

<高額報酬問題>

CFRAリサーチのアナリスト、ガレット・ネルソン氏は「マスク氏はツイッター買収のための株式売却で失った経営権を取り返そうとしている」と解説。また、同氏の要求は、高額な報酬は不当だとした訴訟を巡るデラウェア州の裁判所の判決を控えた動きの側面があると付け加えた。

テスラの株主は、マスク氏が自身の会社に対する圧倒的な影響力を駆使し、フルタイム勤務を求められない形での高額報酬を取締役会に認めさせたと訴えており、今後、判決が下される見通し。

原告側は裁判所にこの報酬パッケージの無効化を求めており、それが認められた場合、テスラの取締役会が新たに同規模の報酬パッケージに同意するのは難しくなる。

調査会社エクイラーの2022年の推計では、マスク氏の報酬パッケージは、21年の高額報酬上位200人の企業幹部の合計の約6倍に上るという。

マスク氏は15日、自身の報酬パッケージについて取締役会との間に対立はないと強調した。

専門家の一人は、取締役から反対が出るとすれば、バンガードやブラックロックといったマスク氏以外の大株主からの異論への懸念が理由になるのではないかとみている。