アングル:サウジのEV産業に厳しい現実、国内産業基盤がぜい弱

Reuters

発行済 2024年01月29日 08:16

Pesha Magid

[リヤド 23日 ロイター] - 石油大国サウジアラビアは、実力者ムハンマド皇太子が掲げる脱石油・雇用創出に向けた大規模な計画の一環として電気自動車(EV)産業の育成に取り組み、これまでに巨額の資金を投じている。しかし、国内に部品メーカーなどサプライヤーが少ない上に、EV業界は中国や米国との競争が激化しており、今後、厳しい現実に直面しそうだ。

サウジはEV産業の拠点になることを目指しており、米新興EVのルーシッド・モーターズに少なくとも100億ドルを投資したほか、独自のEVブランド「Ceer(シア)」を立ち上げ、EV用金属プラントを建設。運用資産7000億ドルの政府系ファンド、パブリック・インベストメント・ファンド(PIF)は2026年に年間15万台としていたEVの国内生産台数目標を30年までに同50万台に引き上げた。

だが、実際には昨年9月に生産を開始したサウジ唯一の自動車工場は、12月までの生産が約800台。しかも、米アリゾナ州から供給を受けたキットの組み立て直しだった。

サウジは、過去にも自動車製造業の誘致に失敗している。

トヨタ自動車は2019年に、人件費の高さや、国内でサプライヤーが不足し市場も小さいことなどを理由に、サウジへの工場進出を断念した。

アナリストによると、サウジは現在もこうした問題を抱えており、競争も厳しい。

アーンスト・アンド・ヤング(EY)のアナリスト、ガウラブ・バトラ氏は「サウジが直面するのは、既存の製造大国やサプライチェーン(供給網)とのし烈な競争だ。EV産業を形にして実際に稼働させるまでに多くの課題を乗り越える必要がある」と指摘する。

中国はEVの生産だけでなく、新たな供給網も支配。中国EV大手の比亜迪(BYD)は昨年末、米テスラを抜いて世界最大のEVメーカーとなった。一方、米国もインフレ抑制法(IRA)によるEV向け投資の融資を目指している。

<第一歩は国内産業育成>

サウジにとって最大の課題の一つが、ドアからエンジンまで自動車部品の生産者を誘致することだ。

PIFと台湾のフォックスコンの合弁会社であるシアは25年までにEVを発売する計画だが、工場はまだ建設されていない。関係筋は26年までに発売される可能性は低いと明かした。

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アナリストも初期の成果に懐疑的だ。

S&Pグローバル・モビリティのタチアナ・フリストバ氏は「われわれは(サウジの掲げる)高水準の生産台数を信じていない。この水準の達成には大量の輸出が必要になるからだ。可能性がないわけではないが、当社の予測範囲内では実現しないと見ている」と述べた。

韓国の現代自動車とPIFは昨年10月、内燃機関とEVの工場を建設する合弁事業を発表したが、これだけでは「OEM(相手先ブランドで生産するメーカー)に現地化を飲ませることはできない」と、フリストバ氏は見ている。

シアはEVの重要部品であるバッテリーをドイツのBMWから調達する。

サウジの自動車製造セクターの幹部は、サプライチェーンと車両の製造を米国内に維持するというルーシッドの戦略について、サウジでの現地化に与えられるインセンティブが引き金となって再組み立て拠点の設立に拍車が掛かる可能性があると指摘。

その一方、サウジが外国製自動車の輸入を継続するため、現地生産の拡大が妨げられる恐れがあるとも述べた。

<持続可能性のアピール>

サウジは気候変動問題における持続可能性のアピールに熱心に取り組んでおり、国際会議の場でルーシッドを前面に押し出している。政府は今後10年間にルーシッド車を最大10万台購入することに合意し、サウジ産業開発基金(SIDF)は22年に工場建設の資金調達のためルーシッドに14億ドルの無利子融資を行った。

PIFはルーシッドの60%株式を所有し、同社への投資額は23年8月時点で少なくとも54億ドルに上った。

ルーシッドの幹部はPIFの投資について「多くの利益を得るために参入したプロジェクトではないと思う。もっと戦略的な関係だ。サウジの自動車産業におけるエコシステムの発展はサウジにとって大きな勝利だ」と述べた。