焦点:中国恒大、命運左右する本土の裁判所 香港で清算命令

Reuters

発行済 2024年01月31日 18:28

Scott Murdoch Clare Jim Xie Yu

[シドニー/香港 30日 ロイター] - 香港の高等法院(高裁)は29日、3000億ドル近い負債を抱えて経営再建中の中国不動産大手、中国恒大集団に清算命令を出し、実質的に法的整理の手続きに入ることを決めた。しかし専門家の見立てでは、恒大の清算は中国当局が香港高等法院の決定を受け入れるかどうかにかかっており、当局の判断は世界的金融ハブとしての香港の地位にも影響しかねない。

恒大は香港高等法院の今回の決定まで約1年半にわたり海外の債権者と交渉したが、不調に終わっていた。

関係者2人がロイターに語ったところによると、海外の債権者は恒大の清算人に選任されたアルバレス・アンド・マーサル(A&M)の今後の動きについて、まず新たな債務再編計画を提示し、それが合意を得られなかった場合にのみ清算手続きに動くと予想している。

国際会計事務所デロイトで企業の破綻処理業務を手掛けるデレク・ライ氏は「清算人は通常、清算よりも債務再編を好む。一般的に債権回収率は再編の方が高い」と話す。

恒大は2021年に債務不履行に陥った。債務再編案を多数練ったが、同社の経営の柱である国内部門とトップがいずれも捜査の対象となり、中国政府が新たな社債の発行は不可能との判断を示したため、破綻に追い込まれた。

清算命令を出した香港高等法院の陳静芬(リンダ・チャン)裁判官は、清算人が恒大の経営を引き継ぐことが規制上のハードルを乗り越える上で役立ち、新たな再編計画に道が開かれると述べた。

<社会の安定重視>

恒大は経営規模が非常に大きい。さらに、未完成だったり引渡しが済んでいない住宅の代金を既に払った購入者の怒りが高まって社会の安定を揺るがす恐れがあることから、債務再編協議では恒大が本拠を置く北京と広州の当局のほか、中国証券監督管理委員会、国家発展改革委員会などの規制当局とも緊密なコミュニケーションが図られる見通しだ。

債権者との債務再編協議が不調に終わった場合、清算手続きの進展やペースは中国本土の裁判所が香港高等法院の判断を認めるかどうかに左右される。法律専門家の話では、本土の裁判所が香港高等法院の決定を承認すれば、債権者は担保の設定されていない中国本土の資産を差し押さえることができる。ただ、こうした手続きには数年単位の時間を要する可能性があるという。

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こうした本土にある資産の大部分は土地や不動産物件であり、銀行やビジネスパートナーなど国内債権者に担保として差し入れられており、中国本土の資産を巡り海外債権者との間で対立が生じそうだ。

香港のホーガン・ロヴェルズのパートナー、ジョナサン・ライチ氏は「本土の裁判所は香港の境界に関する取り決めに基づき、さまざまな方法で香港の清算人の承認や支持を拒否することができる。例えば本土の債権者が不当に扱われる可能性がある、承認が中国法の基本原則に反する、公序良俗に反するといったケースなどだ」と話した。

中国は21年に、上海、アモイ、深センの裁判所が香港の破産手続きを認める試験的な制度を創設した。

しかし恒大は本社が広州にあり、2400億ドルに上る保有資産の多くが中国全土に分散しているため、清算人は恒大の子会社が置かれている全ての都市の裁判所に赴き、主導権の確保を図る必要がある。

香港の裁判所は過去にも中国企業に清算命令を多数出しており、本土との境界をまたぐ清算手続きは多くの企業にとって頭の痛い問題となっている。

これまで多くの清算案件に関与してきたデロイトのライ氏に聞くと、地方政府が海外債権者を不公平に扱った例もあるが、省当局が支援に乗り出すと手続きはより円滑になるという。

法律事務所アシャーストのパートナー、ランス・ジャン氏は「海外の債権者にとって本土の裁判所から迅速な承認が得られれば非常に心強い。香港が地域の金融センター、対中国投資の拠点としての信認を取り戻す上で追い風になるだろう」と期待を示す。