アングル:米でEV販売鈍化、HV増産急ぐメーカー 設備増強も

Reuters

発行済 2024年03月21日 17:57

Joseph White

[デトロイト 15日 ロイター] - 米国では電気自動車(EV)の売上高が鈍化する一方で、ハイブリッド車(HV)と外部からの充電が可能なプライグインハイブリッド車(PHV)の販売が急増している。

ゼネラル・モーターズ(GM)をはじめ多くのメーカーの間では、完全なEVへの切り替えを重視してHV販売を段階的に終了させようとする動きがあったが、消費者のHV需要は逆に拡大。業界幹部やアナリストの話では、この流れは持続的と見込んだ各メーカーやサプライヤーがHVとPHVの増産にに向けた設備の増強に乗り出しているという。

モルガン・スタンレーによると、2月の米国におけるHV販売の伸びはEVの5倍に達した。ステランティスは、ジープ部門のスポーツタイプ多目的車(SUV)「ラングラー」の全販売台数に占めるPHVの比率は2023年前半が37%だったが、後半には50%に高まったと明かした。

フォード・モーターの今年1─2月のHV販売台数は37%近く増加し、最低価格2万5315ドル(約380万円)の小型トラック「マーベリック」がけん引。カリフォルニア州のある自動車販売店の幹部は「当店で今最も売れ筋となっているのはマーベリックのハイブリッド車タイプだ」と述べた。

実際マーベリックの販売台数のおよそ半分はハイブリッド車タイプが占めており、各販売店はフォードが増産できるならもっと売れるとみている。

フォードの製品開発担当バイスプレジデント、ジム・ボームビック氏はロイターに「マーベリックの生産能力を急いで拡大しなければならなくなった」と語り、需要に対応するため生産シフトを全面的に2交代制から3交代制に変更したと説明した。

こうした業界のハイブリッド車への傾斜は、エンジン車からの二酸化炭素(CO2)排出量をできるだけ早くゼロにしたいとの観点でEV普及を促進しようとしているバイデン政権にとって逆風だ。

一方11月の米大統領選次第で、バイデン政権が進めてきたEV購入補助金やEV普及のための排ガス基準などが存続しなくなる可能性もある。複数のアナリストは、大半の既存大手メーカーはEV事業で赤字を抱えており、将来の政権が方針を転換すれば、ハイブリッド車がより大きな収益を得ながらCO2削減を目指せる道になり得ると指摘した。

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アリックスパートナーズのグローバル自動車プラクティス部門責任者を務めるマーク・ウェークフィールド氏は「ハイブリッド車は、規制の観点からの(EV)推進熱を冷ますような政策転換が起きた場合に備えた重要なヘッジ手段だ」と述べた。

オートフォーキャスト・ソリューションズ(AFS)提供のデータに基づいてロイターが計算したところでは、トヨタ自動車とフォード、ホンダが主導する北米のハイブリッド車生産台数が2025年までに全小型トラック生産に占める比率は最大20%に達し、EVの14%をしのぐ展開になってもおかしくない。

AFSのバイスプレジデント、サム・フィオラニ氏はロイターに「昨年EVの(生産)見通しは約100万台下振れたが、ハイブリッド車の見通しはほぼ同じ分だけ切り上がった」と話した。

<強気の見通し>

こうした中でドイツ自動車部品大手シェフラーなどのサプライヤーも、ハイブリッド車生産能力拡大のための長期投資に乗り出している。

シェフラーは米オハイオ州に2億3000万ドルを投じ、ハイブリッド車の運転システムに使う電動アクセル増産のための新工場を建設する計画。同社は現在、フォードの小型トラック「F-150」のハイブリッド車向けの重要部品のサプライヤーだ。

フォードは、F-150の販売におけるハイブリッド車のシェアを現在から2倍に引き上げて20%にすることを目指している。

シェフラーの米国部門を率いるマーク・マクグラス氏はロイターに、小型トラックと大型SUVのハイブリッド車用パワートレインの採用はさらに広がると予想。この分野での主要メーカー全てと協議することになるとの見通しを示した。

消費者の声からもハイブリッド車需要の強さが確認できる。メリーランド州に住むジェレミー・アシュトンさんは、所有していたF-150の燃費の悪さに不満があったため、およそ6万1000ドルでF-150のハイブリッド車に買い換えた。価格はガソリン車タイプと同じか、場合によっては安かった上に、燃費はずっと改善したという。

同州のある販売店の責任者は、23年8月と9月にハイブリッド車の発注を増やし始めたと明かす。12月にはこの店のF-150の販売台数のおよそ35%をハイブリッド車が占めた。