焦点:新型iPhone、ハイテク企業が需要注視 米中対立の逆風下

Reuters

発行済 2020年10月14日 15:32

[東京 14日 ロイター] - 米アップル (O:AAPL)が発表した新型iPhoneの売れ行きを、部品を供給する日本のハイテク企業がこれまで以上に注視している。次世代通信規格5Gが搭載されるのを待っていたユーザーの買い替えを促し、米中対立で失われる中国・華為技術(ファーウェイ)[HWT.UL]向けの部品需要を埋め合わせられるかもしれないとの期待がある。

<「5s」や「6」の受け皿に>

競合の韓国サムスン電子 (KS:005930)のギャラクシーなどと比べ、iPhoneは高速通信5Gへの対応が大きく遅れていたが、今回発売する4機種はすべてが5G接続が可能となる。アップルは毎年この時期、新機種を発表しているものの、5Gモデルの発売を待とうと買い控える動きが出ていた。

日本の電子部品メーカー関係者は「5GのiPhoneを待っていた層は少なからずいる」と期待感を示す。

スマホ向けの部品を手掛ける国内のハイテク企業は、ソニー (T:6758)、キオクシア、TDK (T:6762)、村田製作所 (T:6981)、セイコーエプソン (T:6724)、シャープ (T:6753)など少なくない。「1─2年前に買い替え期にありながら5G対応まで待っていた人たちにどれだけ響くかは、当然気になる」と、別の部品メーカー関係者は言う。

新型iPhoneは高性能モデル、大画面モデル、標準モデル、小型軽量モデルの4機種を揃えた。調査会社IDC Japanの菅原啓シニアマーケットアナリストは「ラインアップとして隙がない」と評価する。

標準モデルの「12」は8万5800円(税別)からと、「11」より1万円程度値上がりとなるが、SBI証券の森行眞司シニアアナリストは、機能面の進化を踏まえると「競争力はありそうだ」と指摘する。iPhone5sや6といった旧モデルが昨秋、最新のOS(基本ソフト)のサポート対象から外れており、「受け皿になり得る低価格帯の機種も用意しており、世界規模での販売台数は期待できるのではないか」と、森行氏は話す。

<ハイテク各社に2つの逆風>

スマホなどに部品を供給するハイテク企業には今年、2つの逆風が吹いた。新型コロナウイルスの感染拡大で世界のスマホ市場は不振を余儀なくされた。米調査会社のIDCによると、世界の4―6月の出荷台数は前年割れとなった。在宅勤務や自宅学習によるパソコンや通信量増大に伴い、データセンター向けなどの需要増が支えとなったが、米政府によるファーウェイへの輸出規制がそこへ追い打ちをかけた。

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英調査会社のオムディアの試算では、ファーウェイによる日本企業からの部品などの昨年の調達額は約1兆円。輸出規制のインパクトは大きい。今年は米規制をにらんだ在庫の積み増しもあって1兆1000億円程度と膨らむ見込みだが、来年は半減以下に縮みかねないという。

ソニーは需要の変調に対応するため、スマホのカメラに使うイメージセンサーの生産設備投資の抑制を決めた。8月の決算で、20年度までの3カ年の累積設備投資の計画を下方修正。会見した十時裕樹副社長は、21年度以降の計画も見直すと述べた。

半導体メモリ大手のキオクシアは、10月に予定していた東証への上場計画を延期した。要因の1つは、米国のファーウェイ規制強化が影を落としたことだった。

世界的に販売を伸ばすオッポやシャオミ (HK:1810)など、ファーウェイ以外の中国メーカーとの取り引きを増やすことで、ファーウェイの穴を埋めようとする動きもある。「短期的に売り上げが落ち込んだとしても、技術力に優位性があればいずれ取り返せる」と、ソニーの関係者は話す。

部品メーカーの営業努力に加え、iPhoneの販売が従来以上に膨らめば、「100%は無理でも、ファーウェイのロスをある程度はカバーできるのではないか」と、オムディアの南川明シニアディレクターは指摘する。

<不透明要因も>

懸念されるのは、世界のスマホ市場の潮流が低価格化に向かっていることだ。新型iPhoneの価格にもその兆候がみられ、調査会社フォーマルハウト・テクノ・ソリューションズの柏尾南壮ディレクターは、これまで付属していた電源アダプターなどが省かれたが「それでは補えないぐらい(値段が)抑えられた」と指摘。高速・大容量を特徴とする5Gは通信モジュールやプロセッサーなど部品コストの上昇が見込まれるが「部品メーカーも薄利を求められるのではないか」と語る。

そもそも、期待通りに新型iPhoneが売れないリスクもある。競合する米グーグルのOS「アンドロイド」を採用するスマホも機能を進化し続けており、5Gの対応はiPhoneに先んじた。