アングル:ドローン最大手中国DJIに異変、内部闘争で人材流出

Reuters

発行済 2021年03月13日 07:58

[深セン(中国) 8日 ロイター] - ドローン(小型無人機)世界最大手の中国DJIテクノロジーは、過去10年間で米国事業が大成功を収め、ほぼ全ての競合他社を市場から追い出すほどの勢力になった。

しかし、ここ数カ月間は北米事業で内部闘争が起こり、解雇や退職が相次いでいる。20人以上の現従業員と元従業員へのインタビューで明らかになった。

主要幹部が退社して一部がライバル社に転籍したのに加え、米政府による中国企業への禁輸措置により、DJIの支配的地位が揺らぐ可能性も高まってきた。かつては考えにくかった事態だ。

現・元職員3人によると、解雇や退職によって昨年カリフォルニア州パロアルト、同バーバンク、ニューヨークの事務所を去ったのは、北米地域のチーム200人強の約3分の1に上った。

取材に応じた4人によると、今年2月にはパロアルトにある米旗艦調査センターで研究・開発(R&D)部門の責任者が退職し、DJIは同部門の残り約10人も解雇した。

DJIは、パロアルトの人員削減について「変化し続けるニーズ」を反映した苦渋の決断だったと説明。「影響を受けた従業員の貢献に感謝しており、顧客およびパートナーとの約束を守り続ける」とした。

また、「競合社が誤解を招く主張をしているが、わが社の企業顧客はDJIが強固なデータセキュリティーを提供していることを理解している。匿名筋がゴシップを流しているが、DJIは北米市場でサービスを続ける決意だ」と強調した。

2006年の創業以来、中国の技術革新の象徴となってきたDJIは、米中の貿易・外交摩擦の渦中にある数十社の1つだ。

現・元従業員や競合社によると、DJIのブランド力、技術的ノウハウ、生産力、営業力を考えれば、同社が近い将来に世界と米国の非軍事用ドローン市場で王者の地位を失うことはないだろう。

しかし、米商務省が昨年12月、事実上の禁輸リストである「エンティティー・リスト」にDJIを加えたことや、カリフォルニア州R&D部門の閉鎖により、米顧客へのサービス提供能力が衰える恐れがあるという。

商務省の措置は、DJIが米国で「最先端技術の監視」を可能にしているとの疑惑に基づいて実施され、同社が米国の技術や部品を購入・使用するのを禁じた。

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同じ12月、DJIの米公共安全責任者だったロメオ・ダーシャー氏が退職した。ドローン技術を米政府の省庁や機関に提供する事業を構築する上で、中心的役割を担ってきた人物だ。米航空宇宙局(NASA)の元幹部で、ドローン業界の重鎮であるダーシャー氏は今、DJIと競合するスイス企業・オーテリオンに勤めている。

ダーシャー氏は「全ての他社を大きく引き離す業界首位企業を去るのは、簡単な決断ではなかった」と語る。しかし、「内部闘争が本来の目的の邪魔をしており、2020年には状況が一層悪化した。多大な人材が失われたことは非常に残念だった」と退職の理由を明かした。

ダーシャー氏や他の複数の従業員はDJIの内部闘争を、権力闘争を描いたテレビドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」になぞらえ「ゲーム・オブ・ドローンズ」だと話している。

<米国のセキュリティー懸念>

非公開企業であるDJIは、売上高を公表していない。米国防総省は、米非軍事ドローン市場の昨年の市場規模を42億ドル相当と推計。コンサルタント会社・ドローンアナリストによると、DJIは北米の同市場で、消費者向けでシェア約90%、産業向けで70%超を占める存在だ。

ドローンアナリストの調査責任者、デービッド・ベノウィッツ氏によると、DJIは米商務省のリストに載ったことで、モバイルアプリやウェブサーバー、一部の電池、画像関連商品が影響を受ける可能性がある。ただ、DJIは昨年12月、米国の顧客が同社製品を買ったり使ったりすることには影響しないとの見通しを示した。

しかし、商務省の措置に先立ち、DJIは米政府からもう1つの打撃を受けていた。米内務省は昨年10月、米国防総省が承認した企業からしかドローンを買わないと宣言したのだ。国防総省が昨年8月、米連邦政府へのドローン納入を承認した企業は、米企業4社とフランス企業1社の計5社に限られていた。

<原始的な市場>

ベノウィッツ氏は、こうしたことによりDJIの北米でのシェアは縮小する可能性があると指摘。DJIの事業に占める米連邦政府の購入分は比較的小さいが、他の顧客が今後さらに厳しい措置が実施されると危惧する結果、「萎縮効果」をもたらしかねないと言う。

「市場でビジネスチャンスが増え過ぎて、1社だけで市場を支配するのは難しい時代がきた」とベノウィッツ氏は語った。